黒ピカ塗装 [何故か郷愁の領家線2]

領家線7号

5月3日の日記の続き)
 線に沿って進むと新芝川に出た。川の向こうに大きなジャミラが立っている。これは立派だ。惚れ惚れと見上げる。
 主柱は頂上付近からゆるやかなカーブを描きながら徐々に広がっていく。腹材の切り取る真四角な青空が鉄塔全体を軽やかに見せる。短長短ときれいなリズムを取る上部の腕金、下段の変則三角配列もここではちゃんと縦に3本行儀よく並び、アクセントをつけている。何てきれいな鉄塔だろうか。


黒ピカ塗装 橋を渡り足元に寄る。鉄塔は黒く塗られていた。そしてその黒の間に雲母のようにピカピカ光る点が。古い鉄塔では時々見かける塗装だ。特殊な塗料なのだろうか。
 黒ピカ塗装――私が勝手につけた名前だが――男っぽくていいやね。精悍だよ。泥が付いたって何が付いたって負けねぇぞって感じだよ。


 大鉄塔の次の鉄塔で下に併架してきた送電線は分岐して地下にもぐる。そしてそのすぐに小さな異型鉄塔が片腕を長く延ばして現れる。領家線8の1
 この腕金の形は引き下ろし鉄塔によくある形だ。何故かここでは使われていない。送電線は何もなかったかのようにまっすぐ通り抜ける。もう降ろすケーブルがない腕金、それでも長く空に張り出している。


 この鉄塔も元々は黒ピカの塗装をしていたらしい。でもその上からクリーム色のペンキでも塗り重ねたのだろうか。仕事も取り上げられ、まだらに塗られちょっと可哀そうだ。
 やたらカラスがうるさい。隣のジャミラの頭にカラスの巣があった。4月から7月まではカラスの繁殖期だそうだ。巣をあまり見ると攻撃してくるというからそこそこで切り上げる。


 路地を抜けると小さなジャミラが待っていた。領家線9号、高さは21メートルしかない。工場横の敷地からひょこっと頭を突き出していた。こいつも塗装は黒ピカだが、今度は少し赤っぽい。下地が出てしまったのかもしれない。
 送電路に少し角度があるためだろう、懸垂碍子が思いっきり踊っていた。


 私こういう小さな鉄塔にとても弱いんです。缶コーヒーを買ってきて、向かいの駐車場に座り込み、しばらくこの鉄塔との時間を楽しんだ。
 工場ではちらほら作業もしているようだ。でもさすがゴールデンウィークだ。さわやかな風と太陽の中、街はのんびり、鉄塔ものんびり。私ものんびりと過ごす。

領家線9号
続く