タンポポ [何故か郷愁の領家線3]

領家線10号

5月3日の日記続きの続き)
 いつまでも9号と過ごすわけにもいかない。先に進んだ。次は…ありゃ何だろう。木々の上に太い鉄柱が飛び出している。三角帽子の下からどんとまっすぐに主柱が下りる。
 近づくと根元は家と家の狭い隙間にあった。ずいぶん下の方になって足は広がり、4本足。鉄柱ではなく一応鉄塔ではあるようだ。でも足と足との間に塀がある。この鉄塔ふたつの家に跨がって立っているのだ。何とも窮屈な鉄塔の住まいだ。
 でも当の鉄塔はあまりそんなことは気にしていないようだ。図太い柱をまっすぐ天に伸ばす。変わっているけどなかなか立派。


 角を曲がると次の鉄塔が見えてきた、引き下ろし鉄塔だ。まてよ、先に送電線が延びていないじゃないか。
領家線11号 突然、領家線は終わってしまった。地形図で見ると送電線がまだ西にずっと延びているように描かれている。送電路が短くなったのだろうか。それとも別の送電路があったのだろうか。


 領家線の引き留め鉄塔は9本手を持つ小さな鉄塔。ケーブルを受ける鉄構も簡素な感じだ。鉄構の黒く塗られた足元を綿毛を広げたタンポポたちが飾っていた。


領家線3号〜 たった12本の領家線。鉄塔の間隔も短いからほんの僅かな距離。でも渋い個性派ぞろいだ。ほとんどの鉄塔の高さは20〜30メートルしかない。川岸の鉄塔を大きな鉄塔と書いたが、実は40メートルほど。都内の最近の鉄塔なら標準的な高さでしかない。でもこの線には一昔前の標準がふさわしい。
 環七に戻り歩道橋の上から今たどった領家線を振り返る。工場と住宅が混在する街。家並みが低く、空き地も多い。そして空は広く、流れている時間もどこかゆったりしている。
 何故か郷愁の領家線。鉄塔も風景も60年代している。
5月3日の日記 終り)