空に突き出す巨大な腕

板橋線82号

4月29日の日記の続き)
 ともあれここが板橋線の終点だ。さあ送電線を遡ろう。門型鉄塔が線路の上を郊外へ向かって続いている。
 すぐに上板橋の駅。ここで板橋線は3本のスリムな矩形鉄塔に変身して駅を通過する。91、90、89号だ。細身の鉄塔の内側に1回線を通し、もう1回線は腕金を線路側に広げ支えている。左右が非対称の鉄塔だ。


 左右が対称ではない鉄塔を「片寄り鉄塔」と呼ぶらしい。片寄り鉄塔は鉄塔と送電線の通る位置がずれるところがミソ。
 ここの片寄り鉄塔は送電線が線路の上空を外れないようにとの配慮だろう。3本で線路をジグザグに縫って行く。


 雰囲気はなかなかレトロで良い。近寄ってみると山型鋼にもポルトにも錆が浮き出ている。標札は昭和29年、結構古い。それにしてもメンテナンスがされていない。これはいかんなぁ。
 でも風景としては古びた赤黒い鉄塔は街に溶け込んで落ち着きがある。


 駅を越えた89号は鉄道の敷地からはみ出し、線路際の道を塞いで立つ。道路は鉄塔を避けぐにゃりと迂回だ。これもまた結構。道は真っ直ぐより曲がっていたほうが自然でよい。
 鉄塔の根元は道路側だけ1メートルほどコンクリートで固められ、黄色と黒のペンキで塗り分けられている。そのペンキもほとんど剥げている。


 駅を過ぎるとふたたび門型鉄塔の列に。でもなかなか線路沿いには進めない。線路の上の門型鉄塔はあまり高くない。だから少し離れると送電線が見えない。背伸びをしながら進む。
 もう東武練馬駅だ。少し坂を下り駅のほうを見上げるとなんじゃこりゃ!! 何ともおかしな鉄塔が立っている。


 板橋線82号。東武練馬駅の脇に立つ腕金が極端に大きい片寄り鉄塔だ。
 上板橋の片寄り鉄塔はスリム、左右を少しずらした形がとても気取った感じだった。同じ片寄り型でもこの鉄塔は雰囲気がまったく違う。


 大きく片方に伸ばした腕金に2回線分の送電線を全部支えている。空に突き出す巨大な腕金、不安定というか、ダイナミックというべきか。
 駅がカーブになっている。だからこんな形なのか。理屈は理解出来ても、風景はまさに奇観。低い門型鉄塔から唐突に立ち上がった異形鉄塔。なんだかとても愉快な気分にさせてくれた。


 板橋線はこの先数本で独自鉄塔区間が終る。最終鉄構は踏み切り脇の77号だ。
 後は練馬線に併架されて戸田変電所へ。線路の脇には「東武鉄道株式会社 練馬変電所」。
 板橋線ちょっと短いがとても面白かった。味のある鉄塔が何本もいた。そんな満足に浸りながら変電所を眺める。


 出発点の「ときわ台変電所」に比べ、この変電所はとても新しい。小さいながらちゃんと敷地をとり本格的に建てられている。新しく建てられたのだろうか。
 もしかしたら「ときわ台変電所」は廃止でこの変電所が代りをつとめる? となると「板橋線」も独自区間は廃止なのかも知れない。
 メンテナンスをしていない錆の浮き出た鉄塔と寂しい木馬が思わず思い出された。