線を交差する


房総線と北総線

 二つの送電路が交わるところ―送電線の交差点はおもしろい。空中を立体交差で通過したり、交差のために鉄塔を建てたり…、不思議な鉄塔と出会う確立も大きいのだ。


 ここでは送電路の交差点で見られる鉄塔たちの姿を紹介する。
  「空中交差」「交差鉄塔」「階段鉄塔」「輪くぐり送電線」
 そして交差もどきの「立ち寄り鉄塔」も説明する。

空中交差

 二つの送電線の高さを変えて空中で送電路を交差させる。通常は電圧の高い路線が上、低い路線が下になるが、これが逆になるケースもある。主に建設年代の差が原因だろう。

房総線と北総線の交差<br>ここでは500KVの上空を275KVが通り抜けている<br>房総線46号・北総線7号
房総線と北総線の交差
ここでは500KVの上空を275KVが通り抜けている
房総線46号・北総線7号

 交差では一方の路線の鉄塔を高くするか、他方の路線を低くすることになる。そのため、とても背の高い鉄塔や、逆に背の低いドナウ型など変わった鉄塔をしばしば見ることが出来る。上の北総線7号は135メートルの高塔だ。背の低い例は下に紹介する。

房総線の線下に立つ八街線の小さなドナウ32-1号
房総線の線下に立つ八街線の小さなドナウ32-1号
只見幹線の線下に立つ逆ドナウの二乗鉄塔 桜ヶ丘線32号
只見幹線の線下に立つ逆ドナウの二乗鉄塔 桜ヶ丘線32号
相模湖線の線下に立つ矩形1回線鉄塔 八ツ沢線43号甲乙
相模湖線の線下に立つ矩形1回線鉄塔 八ツ沢線43号甲乙
JR新鶴見線、川崎火力3号線をくぐるための相武線8号甲乙
JR新鶴見線、川崎火力3号線をくぐるための相武線8号甲乙
小松川線をくぐるための門型美化鉄塔 花総線33号
小松川線をくぐるための門型美化鉄塔 花総線33号

交差鉄塔

亀戸線88号。上段が亀戸線(154KV)、下段は花総線(66KV)。鉄塔名は亀戸線で花総線の名前はない。花総線32号相当になる。
亀戸線88号
上段が亀戸線(154KV)、下段は花総線(66KV)
鉄塔名は亀戸線で花総線の名前はない。花総線は32号相当になる。

 二つの送電路線の交差地点に立ち、交差する送電線を支持する。交差が斜めの場合は腕金のかたちが変形となる。鉄塔名は通常交差するどちらか一方の路線名になる。どちらの路線名になっているか興味深い点もある。


新鶴見線(JR)8号、車返線43号  東電とJRの交差。鉄塔名はふたつ書かれている。 交差角度は鋭角だ。
新鶴見線(JR)8号、車返線43号
東電とJRの交差。鉄塔名はふたつ書かれている。
交差角度は鋭角だ。

 東京電力とJR送電線など異なった会社の路線を交差させる場合もある。



 単純な交差ではなく、線を分岐するなど複雑な場合もある。そういった鉄塔は装柱がとても煩雑になる。

美園線4号 交差と分岐 美園線と南葛線が交差し、下段の併架路線はこの鉄塔で分岐する。 中富線71号 交差と進路変更 中富線と車返線が交差。中富線に併架されている久我山線はここで曲がり車坂線に併架される。
左 美園線4号 交差と分岐
美園線と南葛線が交差し、下段の併架路線はこの鉄塔で分岐する。
右 中富線71号 交差と進路変更
中富線と車返線が交差。中富線に併架されている久我山線はここで曲がり車坂線に併架される。

輪くぐり送電線

 空中交差のごく特殊な例として「輪くぐり」のように送電線を交差させる例がある。東京西線と高幡線の交差では、6回線送電路である東京西線の最下段(府中線)と中段(由木線)の間を高幡線が通り抜けている。
 通常なら東京西線の鉄塔を高くするか、交差する高幡線を低くするところだが、このケースでは東京西線の線下に交差鉄塔を建て、上段に高幡線、下段に府中線を支持している。
 東京西線は275KVなので線下の建築制限がきびしい。そのため東京西線に併架されている府中線を下げるほうが、高幡線を下げるより容易だったのではと想像される。

東京西線33号、高幡線28号<br>上段には東京西線、由木線が4回線通り、その下を高幡線2回線がくぐり抜け、府中線は高幡線の下をくぐる。
東京西線33号、高幡線28号
上段には東京西線、由木線が4回線通り、その下を高幡線2回線がくぐり抜け、府中線は高幡線の下をくぐる。

階段鉄塔

 他の送電線との交差などのため送電線の高さを変えるための鉄塔。構造的にはドラキュラなどの引き下げ鉄塔に近い形をしている。

相武線8-1号 川崎火力線3番線とJR新鶴見線の二つの路線をくぐり抜ける。
相武線8-1号
川崎火力線3番線とJR新鶴見線の二つの路線をくぐり抜ける。
境-八王子線(JR)22号 車返線の下をくぐり抜ける。
境-八王子線(JR)22号
車返線の下をくぐり抜ける。

立ち寄り鉄塔

 複数の送電路一つの鉄塔でまとまり、再度離れていく鉄塔。一見鉄塔で送電路が交差しているように見えるが、実際は「 × 」ではなく「 >< 」型になっている。
 このような送電路の配置は送電路の経路変更などによって生じることがある。調べてみると鉄塔の隠された歴史が見えたりする。地味だが実はお宝鉄塔なのだ。


 この鉄塔は奥戸線と花総線を支持していて、花総線と奥戸線がクロスしているように見える。しかし実際は花総線の延長上に奥戸線が、奥戸線の延長上に花総線が「 >< 」型に延びる。
 古い地形図を見ると花総線はここで曲がらずにまっすぐ延びていたようだ。その後昭和40年頃に奥戸線が通り、経路が現在のように変更になったらしい。なるほど、古い延長線沿いには、花総線と同じ「大正12年」という鉄塔札を持つ鉄塔(青井線17号)が残っている。

注:花総線は大正2(1913)年に、群馬県沼田市の岩室発電所から千葉県市川市を結んだ利根発電の送電線(前橋旧線)がルーツだ。
 この鉄塔は撚架や分岐も行われる超複雑鉄塔だ。それについては
  http://d.hatena.ne.jp/sarumaruhideki/20041124
に詳しく紹介した。


 この鉄塔も交差ではなく立ち寄り。まっすぐ延びる北鳩線に美園線が立ち寄って併架している。
 古い地図では美園線はここで北鳩線と交差して平行して南に進んでいる。