矢切の雨中散歩

矢切を行く小松川線

 秋の長雨。ぐずぐずとテレビを見ていたら星座占いをやっていた。今日の私のラッキー方位は北東なのだそうだ。地図を広げると矢切の地名。今日は矢切の雨中散歩に決めた。


 松戸市矢切。『野菊の墓』や「矢切の渡し」で有名な地。渡しで結ぶ対岸はこれまたトラさんで有名な葛飾柴又。
 柴又は小さな家屋が立て込む街だが、江戸川を渡った矢切は一面の畑と水田。丘の裾までしばらく歩かなければ人家もない。松戸と市川に挟まれたこの一帯だけ田園風景が残っている。


 この矢切を南北へ通り抜ける送電線は小松川線だ。小松川線は東京都江戸川区小松川変電所と埼玉県吉川の北葛飾変電所を結ぶ15万4千ボルトの幹線。経路は右に左へと寄り道が多い。最初の寄り道がこの矢切だ。
 小松川線は江戸川区の街中から北総鉄道の鉄橋沿いにやってくる。矢切最初の鉄塔は背の高い赤白鉄塔93号。
 江戸川両岸の赤白鉄塔と水色のトラス鉄橋、たっぷりと緩く張られた送電線。寄り道はとても絵になる風景から始まる。
小松川線92号


 鉄塔の背も低くなり灰色の四角鉄塔92号へ。矢切の平地を縦断する坂川の河畔、刈り取りが終わった水田の中に立っている。横には藁塚がもっこりと作られていた。
北総矢切線1号

 小松川線は坂川とともに北上する。次は赤白鉄塔。右手に送電線が分岐し、その先の変電所までゆるやかに下っている。北総鉄道の矢切変電所、最終の鉄塔は北総矢切線1号鉄塔だ。こちらはここで行き止まり。


 1本おいてまた赤白の分岐鉄塔89号が現れる。この鉄塔、太い鋼管が直線状に上に延びるスマートな奴。
小松川線89号


 ここから分岐するのは小松川矢切連絡線――たった鉄塔1本だけの路線。すぐに矢切線の46号鉄塔に連絡している。
 この矢切線46号もまたまた分岐鉄塔。矢切線の最終鉄塔47号に急角度で線を降ろしている。すぐ隣には東電の矢切変電所。


 矢切線最終鉄塔47号は好きなタイプの引留鉄塔だ。
 さっき見た北総矢切線の引留鉄塔は奴凧のような太い腕金。送電線を正面から受け、堂々として静かな印象。
 この矢切線引留鉄塔は三角の腕金を3方向に9本突き出し、急角度で送電線を受け止める。V吊りの碍子がとても重々しい。重装備の騎士といった感じだ。9本の腕を振り回し、今にも動きだしそうな風情。
矢切線47号


 矢切線はすぐ近くまできた丘を越え、その先に消えている。どこまで行くのだろうか。47本の鉄塔の到着点に思いを馳せながら小松川線に戻る。
 坂川沿いに小松川線を辿る。岸辺にはコスモスの花。回りはネギ畑と水田が混在している。のんびり歩く。


 小松川線はなおも北に進み、水戸街道とJRの常磐線を越えて住宅地。葛飾大橋の手前の84号赤白鉄塔で江戸川を越え対岸へ戻っていった。


 15万4千ボルトの送電インターチェンジ。さほど広くない地域に鉄塔が14本、変電所は2つ。鉄塔も引留鉄塔2本、分岐鉄塔3本、赤白鉄塔4本と変化に富んでいる。送電線の経路名は何と4つもある。
 それでいて鉄塔達とのどかな田園風景がよく馴染んでいる別天地。霧雨にしっぽりと濡れた良い一日だった。星座占いに感謝。