計画停電とは 1

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 今回の大地震、被災された方がんばってください。無事だった我々が出来ることは少ないですが、精一杯の応援をしたいと思います。
 とりあえず今回の「計画停電輪番停電)」なるものの意味や仕組みを私なりの理解で書きます。

  • どうして停電が必要なのか。
  • どうしてグループという細かい単位が必要なのか。
  • どうして「計画」といいながら実施したりしなかったりするのか。


これらの疑問について書きます。


 被災しなかった東電管内は被災地の後方支援の位置にいます。我々は冷静沈着でなければいけません。計画停電も仕組みが理解できればイライラが少しは少なくなります。東京電力管内の方々の気持ちに余裕が生まれれば幸いです。


 なお私は電気の素人です。ただ趣味の関係から電力系統のことも興味あり入門書を読んでいるので、その範囲で書きたいと思います。
 参考にした本は『Dr.オカモトの系統ゼミナール』(岡本 浩・藤森礼一郎 著・<財>日本電気協会新聞部 2008/7/8)です。

Dr.オカモトの系統ゼミナール (電気新聞ブックス)

Dr.オカモトの系統ゼミナール (電気新聞ブックス)


 説明に間違いや理解不足などありましたら、ご一報ください。

計画停電とは 2 現在の発電状況

 東京電力の発電能力がどの程度損傷を負ったのかを東電のプレスリリースを元にまとめました。(13日15時時点)

●現在地震のため稼働していない発電機
 発電所     号    出力(万KW)

                                                                                    • -

福島第一      1〜6  470
福島第二      1〜4  440
 原発計          910

                                                                                    • -

広野火力発電所   2    76.0
          4    76.0
常陸那珂火力発電所 1    100.0
鹿島火力発電所   2    73.3
          3    73.3
          5    73.3
          6    73.3
大井火力発電所   2    35.0
東扇島火力発電所      100.0
 火力計          680.3

                                                                                    • -

発電所出力については『平成22年度 数表でみる東京電力』を参考にしています。おおむね平成21年の数字です)
(広野と鹿島は発電機毎の出力が不明なので全体の最大出力を基数で割り平均値をとっています)

 最大出力ベースで1600万キロワットの発電所地震のため停止中です。東京電力の発電設備全体は約6450万キロワットですから、その25%が失われたわけです。
 実際には福島第一の4、5、6号機は定期検査中でしたので、その3基分267万キロワットを差し引いた1324キロワットが不足していると考えられます。

 今年の2月に柏崎刈羽原発の4基目の再稼働が行われました。それがなかったらと思うとぞっとします。

 東電の発電所は福島から千葉へかけての臨海部が特に多くなっており、この周辺への打撃はつらいものがあります。
 原子力発電所の復旧はとても長い期間かかります。火力の復旧が当面の鍵になるでしょう。

計画停電とは 3 電気はためられない

 さて本題に入ります。「なぜ計画停電が必要なのか」の答えは「大規模停電を起こさないため」です。大規模停電がいったん発生すると復旧に数時間から数日かかることもあります。2003年の北米大停電では停電規模6180万キロワット、復旧には最長2日間を要してます。

 大規模停電をなくすために計画停電をするのは何故でしょうか。ちょっと複雑であまり知られていない世界の話なので順序だてて説明します。

  • 電気はためられない
  • 電気が不足したり過剰だったりするとどうなる
  • 停電のドミノ倒し――大停電
  • 「グループわけ」の意味
  • 「実施があったりなかったり」の意味


 説明の最初は「電気はためられない」です。


 電気はためられません。もちろん蓄電池など小さな電気をためる仕組みはすでにあるのですが、毎日我々が使用しているような大容量の電力は蓄積する方法がありません。
 超伝導を利用した蓄電池などの研究も行われてはいますが、現時点ではまだまだのようです。
 現在われわれが持っている唯一の電気の蓄積方法は「揚水式発電所」です。これは余剰電力を利用し、水を低いところに作ったダムから山の上のダムに上げておき、ピーク時には逆に上から下に落とすことで発電するという仕組みです。

 さて「電気がためられない」ということは、発電している電力と消費されている電力は常に同じということです。需要が増えれば発電量を増やし、需要が減れば発電量を減少させる。このオペレーションが常時行われているのです。

 日本では正午になると電力消費ががくんと落ち、午後1時になると一気に回復します。ですから、発電機も正午になると稼働を落とし、午後1時になると再稼働させます。
 この時に発電量の調整に利用されるのが火力発電と水力発電です。原子力発電は出力は大きいのですが、発電量の調整は難しいようです。
 発電量の調整が容易な水力と火力ですが、水力発電は数分で最大出力へ持って行けますが、火力発電は30分程度の時間が必要と聞いています。ですから、午後0時30分頃には各地の火力発電所のボイラの燃料を上げはじめ、数分前には水力発電所のコックを開ける。そんな操作がされているのですね。


★電気はためられないから、刻々変化する需要に応じてリアルタイムで発電量を調整している。

計画停電とは 4 電気が不足したり過剰だったりするとどうなる

 さて、発電量の調整がうまくいかず電気の供給と消費のバランスがくずれたらどうなるのでしょうか。
 われわれの使っている電気は交流です。富士川を境に西は60ヘルツ、東は50ヘルツの交流を使っています。
 この周波数がばらばらだと支障が起こるので、同じ電力系統、たとえば東京電力管内の発電機はすべて同期して、同じ回転数で動いているのです。同期させる仕組みがあるのだそうですが、私のような素人から見るとちょっとした神業ですね。


 電気の過不足が起こるとこの周波数が変動してしまうということです。電気が不足すると周波数が下がり、過剰だと周波数が上がります。
 周波数が上がると電灯などは問題ありませんが、モーターの回転は速くなってしまいます。下がると逆の現象が起こります。
 需要側の問題だけではなく、重要なのは供給側、つまり発電機です。発電機は周波数の変動があるとそれについて行けなくなり、ついには停まってしまいます。それを防ぐためにある一定の周波数の変動があると、自動的に発電機は電気系統から切り離されるようになっています。発電機が切り離されることを供給離脱といいます。


 電気が不足している状態で発電機が切り離されると、電気不足はいよいよ深刻になります。それを防ぐにはどうしたらよいでしょうか。その答えが停電です。
 供給がたりなければ消費のほうを少なくする、つまり足りない分は停電することになります。これを負荷離脱といいます。負荷離脱も周波数を監視することにより自動的に引き起こされます。


 供給離脱が起こるとその復旧はとても時間がかかります。ですから供給離脱が発生する前に負荷離脱=停電を起こして全体の電気系統を守らないとならないわけです。


★発電と消費のバランスが崩れると電気系統を守るために停電が自動的に起こる

計画停電とは 5 停電のドミノ倒し

 電力系統はひとつにつながった大きな回路ですから、末端で起こった現象は全体に影響を及ぼします。ひとつの発電所の離脱は隣の発電所の離脱を引き起こし、それが順番に伝わっていくわけです。
 これが停電のドミノ倒し、つまり大規模停電です。


 電力系統はたとえば東京電力の場合ならループ状の基幹幹線と放射線状の準基幹幹線で運用されていて、放射線状の供給線は他の供給線から電力をバックアップできるような設計になっています。
 しかし一旦大規模な停電が起こるとその復旧が困難なことは、2006年のいわゆる東京大停電(規模は小さいですが)でも変電所の復旧に1時間程度要したことでも分かります。
 2006年の東京の場合は放射線状の供給線の一つである江東線の停止が原因です。その供給線はバックアップ回路である、東京の反対側の荏田変電所からの送電で回復しました。しかし停電の間に都心への電力供給を受け持っていた品川発電所の過負荷とその離脱が全体の復旧を大幅に遅らせたといわれています。


 停電の回復は、発電量の調整だけではなく、負荷の復活によって送電線に流れる電流(潮流といいます)が過大にならないような調整など、全体のバランスを見ながらの段階を追った作業が必要になります。


★ひとつのバランスの狂いが次々に波及して大規模停電が引き起こされる

計画停電とは 6 「グループ分け」「実施が一部」である意味

 供給不足が明らかな現在では停電は必至です。それではどうしたらよいでしょうか。答えは停電以外にありません。ただし停電には大規模停電を起こさないような慎重さが必要なのです。


 今回の計画停電の目的は大規模停電の回避であることは明らかですが、その仕組みはどうなっているのでしょうか。(これについてはあくまで東電の発表を素人なりに解釈したものです)


 まずグループ分けですが、「東京」とか「神奈川」とか分かり易い範囲で設定されていません。全体を1〜5のグループに分けていますが、一つのグループは更に小さく分割され、全体の中に点在するように配置されています。


 ここが分かりづらい点の一つです。でも今までの説明を考えて見てください。「東京」とか「神奈川」など大きな単位で停電、そして停電の復旧をすると、電力系統の需要と供給のバランスにとても大きな影響を与えることは明らかです。
 このように停電グループを分散させておけば、ひとつひとつの電力系統におけるバランスの狂いは比較的小さくなる理屈ですね。


 同じグループでも停電する場所としない場所がある。これも分かりづらいと言われています。しかしグループを一度に停電させたらどうなるでしょうか。全体では一気に大規模な供給過剰が起こります。当然電力系統は破綻しますね。


 同じような疑問で、停電したりしなかったりするのは分かりづらい、との指摘もあります。
 これも今までの説明でお分かりだと思いますが、リアルタイムの需給バランスを見ながら停電とその復旧をするわけです。それを反映しない停電を引き起こせば電力系統全体に影響が起こるでしょう。発電量は調整できますが需要はコントロールできません。
 今この瞬間も中央電力制御所ではリアルタイムの需要の変化と発電所の稼働状況を見ながら、発電量の調整や停電地域の離脱と再投入を行っているわけです。


★停電も停電の復旧も小さな単位で行わないといけない
★停電はリアルタイムの需給バランスを反映しなければいけない
★需要はコントロールできないから、リアルタイムに対応しなければいけない

最後に

 この記事はあくまで電力の素人である私が、たった1冊だけの本に頼って書いたものです。理解が及んでいない点、一部には私なりの解釈で書いた部分もあります。
 当然、不正確な部分を含んでいると思われます。十分な注意を持って読んでいただくことをお願いいたします。(間違いはぜひご指摘ください)


 当初、素人が余計なことを書くと混乱が起こるといけないと思っていましたが、東京電力の方々はじめ、電力関係者の方々は現在とてもたいへんな作業に従事されておられます。
 今回の地震の銃後にいる私にも、銃後の安定が前線の少しでも役に立てばと思い、あえて書かせていただきました。私が実際に今やれることは節電くらいですから。


 最後になりましたが、今回の地震で多くの犠牲者が生まれました。地震津波そして電力関係でも発電所などで死亡が報告されています。この場を借りて深い哀悼の意を表します。
 また今この瞬間も被災され苦しんでいる方々がおられます。福島第一発電所で危険な作業を必死にこなしている方々がおられます。どうか、どうか、がんばってください。
 われわれは義援金を送ったり、節電したりしかできません。でもみなさんの姿を見守ることはやめなでいこうと思います。がんばってください。