鉄塔山へ登る


安曇幹線302と小鹿野鉄塔山

 小鹿野鉄塔山。そんな山はない。私が勝手に名付けた山だ。白石山の東に長く延びる稜線の大きなピーク。たぶん名前はないのだろう。
 それでも小鹿野から眺めれば何本もの50万ボルトの鉄塔が林立する山に見える。今日はその鉄塔山に登るのだ。


秩父開閉所


新岡部線1号と新秩父開閉所

 新秩父開閉所はでかい、すごい、かっこいい。
 向かいの山のてっぺんに新秩父線が立つ。そこから1回線づつ振り分けて開閉所につながっている。私の隣には新岡部線の1号がダーンと立っている。肩パッド型の美しい迫力のある鋼管鉄塔だ。
 少し上流側では安曇幹線の送電線がやってくる。そして新榛名線の送電線は北側の山上に延びている。


 今日は新秩父開閉所から新岡部線沿いに鉄塔山に登り、新榛名線のピークを廻って北側の半平集落へ降りる予定だ。ハイキングガイドには絶対収録されないコースだろうが、私にとっては最高のハイキングコースだ。


新岡部線を登る

 新岡部線の線下から巡視路標識に従って山を登る。巡視路らしい急坂だが、道の整備はとても良い。20分くらいあえぐと新岡部線1-1号にたどり着いた。
 太っとい鋼管、山側3連、谷側2連の耐張鉄塔。6導体の送電線も迫力に力を添える。新榛名線と黒部幹線が横の尾根の上に見えてくる。黒部幹線はとても小さく見える。


新榛名線162号 下に見えるのは黒部幹線634号

黒部幹線634-1号

 新岡部線1-1号から数分の距離で黒部幹線の鉄塔に出た。634-1号だ。
 尾根に沿って登る新岡部線。それに直交して尾根を跨ぎながら東西に進む黒部幹線。634-1号はちょうど新岡部線の線下に立っている。
 急な尾根の上、とてつもなく長い片継ぎ脚だ。


 道はまだまだ続く、引き続き登る。ちょっと分かりづらいところに来たが、尾根筋は間違えていないはず、そのまま踏み跡沿いに登る。すると右の方から登ってくる立派な山道に出会った。巡視路標識もある。やはりここは道を間違えたようだ。

大展望台

 黒部幹線から20分ほど頑張ると新岡部線の次の鉄塔、2号に出た。やあ、眺めがいい! 対岸を行くのは安曇幹線2号線だろう。バックはゴツゴツと荒々しい両神山
 フィールドスコープを取り出して鉄塔番号を確認する。


新岡部線2号
安曇幹線2号線 260〜256号
安曇幹線2号線 260〜256号

 安曇幹線1・2号線は新秩父開閉所側から最初が260号、次が259号の角度。そして258号は分岐鉄塔だ。ここまでは2回線の四角鉄塔だ。
 安曇幹線の1号線と2号線はこの258号鉄塔でひとつにまとまり、新秩父開閉所へ入るようだ。


 分岐した右側の1回線は谷を越えて北側の山へと延びる。これがたぶん1号線だろう。そのまま進む1回線は安曇幹線2号線に違いない。地形図で1号線と2号線の位置関係はずっと変わらないことは確認済みだ。


 安曇幹線2号線はそのまま谷の南側を進んでいく。分岐鉄塔の次が257号。1回線で腕金は互い違いの配列だ。ここまでが通常の四角鉄塔。そしてその次で烏帽子鉄塔になる。烏帽子は256号らしい。どの鉄塔もアングル材の鉄塔のようだ。



秩父線102号、103号、104号乙


 正面には新秩父線が見える。山の向こうから来るのは102号、開閉所真上は103号。ここで分岐して谷底に104号乙が確認できた。たぶん右の分岐は104号甲だろう。こちらはどの鉄塔も鋼管鉄塔のようだ。


 谷側ばかり眺めていた。ちょっと山側を見上げると、やあ安曇幹線の鉄塔がすぐ上に立っていた。安曇幹線287号だ。
 IVIの懸垂型。新岡部線2号のすぐ上隣だ。やってきましたよ! 安曇幹線。今日は安曇幹線の根本に来れるのは、この1本と下りの1本の2本だけ。記念に結界写真を撮る。


 結構風が強くておまけに冷たいが、絶景を楽しみながら昼飯にする。


安曇幹線287号、結界を通して新岡部線2号が見える

鉄塔山頂上の巨大な4本


新岡部線3号

 安曇幹線287号を後にまた尾根を登る。すぐに巡視路標識。左に「新榛名線162号、安曇幹線286号に至る」。これは上流側の隣の尾根に続く道だろう。
 また巡視路標識、「安曇幹線288号へ至る」。これは下流側だ。地図を見ると尾根伝いに安曇幹線の鉄塔が3本。これをたどるとたぶん“安曇幹線鉄塔めぐりコース”になるはずだ。


 右へのルートをチェックしてなお登る。20分ほどで稜線へと出た。右に新岡部線3号、左に新榛名線160号と新岡部線4号が見える。右の小ピークに立つ新岡部線3号へと向かう。


 新岡部線3号の結界は気持ちの良い稜線。さっきの風が吹きすさぶ2号結界に比べたら、食事はぜったいこっちにするんだった。
 これも巨大な酸化皮膜の鋼管鉄塔だ。V吊りだからかな、結界から見上げると腕金が思いっきり延びている。新秩父開閉所から登って来た送電線はここが頂上。ここから稜線を越え、向こうの尾根に4号、そしてもうひとつ下がって1本、対岸に渡って1本、曲がって1本と一路北へと延びている。



新榛名線160号

 ここは小さなピークだが鉄塔山の頂上はまだ上だ。稜線を頂上目指し登っていく。先ほど稜線に出た鞍部に戻り、それを通り抜けるとすぐに新榛名線に到着だ。
 新榛名線160、こちらもデカイ。やはり80メートル、新岡部線3号は60メートルだったから一回り大きい。
 新榛名線は開閉所から4本目、ここで稜線に出て進路を南北から北西へと変え、鉄塔山の稜線沿いに登っていく。3連耐張の角度鉄塔。とても美しい。


 ここから新岡部線4号に行く巡視路が延びている。それを見送って稜線を行く。159号への巡視路標識が見当たらないが、稜線上の道をつたって進んでみる。稜線はなかなか良い道だ。合角(かっかく)ダムの方へ向かう新岡部線が小さく見えている。



 道が急になり始めたところで巡視路標識「新榛名線159号に至る」。尾根の南面を標識を頼りにジグザグに登りまた稜線に戻る。急な斜面なのでほとんど踏み跡が付いていない。疲れるが160号から15分ほどで159号へ着いた。
 新榛名線159号は木立に囲まれた尾根の上、北側斜面に脚を伸ばして立っている。眺望は残念ながら北側が少し見えるだけだ。
 鉄塔札は一番下の脚だ。降りるのがきつい。おお! 高さ89メートル。デカイですね。鉄塔がどんどんでかくなっている。


巡視路階段

 ここが鉄塔山の頂上だと一休みした。でもこれが勘違い。さあ降りようと稜線沿いに進む。道の様相が巡視路しているなぁと思ったら、もう一本新榛名線があった。地図を見ると頂上はこの先だった。


 鉄塔山の最高地点は標高811メートルのピーク。新岡部線の3号は700メートル、新榛名線159号は705メートル、そして先ほどの160号は780メートルほどだ。
 このピークに立つのが新榛名線158号、鉄塔山の王様だ。新榛名線はここで白岩山の稜線を離れ、北の吉田側の谷に沿い、東北に向かって進んでいく。


 新榛名線の鉄塔が山を越えて進んでいくのが見える。はるか彼方の山のてっぺんに鉄塔が見える。すごいなぁ。向こう側はもしかしたら長野県かも知れないね。あの山は何という山なんだろう。山の上が大分赤くなっていてきれいだ。(帰宅後調べると赤久縄山<1522.3m>の横を越えて群馬県藤岡市に抜けるようだ)


新榛名線遠望 赤久縄山の稜線を越えている

安曇幹線と黒部幹線へ下る

 半平集落へ向けて山を下りる。白石山の稜線はこの先で大きな鞍部に下る。吉田川と赤平川を結ぶ峠道が通っているようだ。その峠道から南に支尾根伝いに降りれば、安曇幹線と黒部幹線の鉄塔経由で川筋まで行けるはずだ。


 読図間違いで頂上を勘違い、とは情けない、こんどこそ道は下っている。鞍部からの降り口が今ひとつ分からない。途中で道を失って南に降りていったらポコと道に出た。そこからは快適に降りてきた。


 頂上から30分ほど下って安曇幹線へ出た。284号。鉄塔札が剥がれてしまっていて番号は不明だが、途中の巡視路標識は284号だから間違いはないだろう。でも苦労して到達したのに鉄塔札なしとは情けない。下に落ちていないか探してみたが見当たらない。
 塔頂票は? と見上げるとぎりぎり読めた。間違いなく284号。これで満足だ。
 ピカちゃん看板が見守る、日が当たって気持ちの良いところだ。


安曇幹線284号 塔頂票


 地図で確認すると黒部幹線はだいぶん下だ。どんどん降りる。15分ほど下ると黒部幹線632号。ばかでかい鋼管鉄塔ばかり見てきた目には黒部幹線の鉄塔は本当にシンプルで好ましく映る。
 昭和2年10月製、24mの?吊り・尖り帽子。塗装は黒ピカで精悍だ。水平材は一番最後の×とその上の◇の2本だけ。シンプル! 質実剛健 黒部幹線 ラブ!


黒部幹線632号


 黒部幹線からは、たくさんの鉄塔が見える。
 黒部幹線は634号は新榛名線の線下、そして奥に635号。黒部幹線634号の少し上に立つ新榛名線162号は3連耐張、鋼管の先が尖らない腕金。新榛名線161号は角度鉄塔。向こう側の腕金が四角形のようだ。163号は変電所のすぐ上、山側は3連、谷側は2連の耐張だ。


安曇幹線287号、新岡部線2、1-1号、黒部幹線633、634、634-1号、新榛名線162、163号

夕映えの鉄塔山

 新秩父開閉所の全貌もだいぶん調査が進んだ。下界へ降りよう。3時過ぎに半平の集落へ到着した。秋の日はつるべ落とし。まして山間の谷底はもう夕方だ。


黒部幹線633号


 低い日差しに照らされて鉄塔山南面の鉄塔たちが輝いている。
 安曇幹線286号は半平の集落から頭だけ出している。お隣の285号はちょうど蛹点。どうもこの鉄塔はちゃんとした写真が撮れない。
 後ろを振り返ると山の上に烏帽子。たぶんこれは1号線でしょうね(安曇幹線1号線239号)。


 里からは先ほど見えなかった黒部幹線633号も見える。下がマーメイド型に広がっているような気がする。嵩上げでもしたのだろうか。気になる。



新榛名線158、159、160、161、162号、新岡部線3、2号、安曇幹線285、286、287号、黒部幹線633号
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 4時。谷底はすっかり暗くなり。山の上の鉄塔だけが光り輝いている。まぶしいです。


秩父開閉所と新榛名線、新岡部線


 まだ見えるうちに、と開閉所をぐるっと回って歩く。さすが50万ボルト、すべてが大きい。50万ボルトが4系統8回線。開閉所だからこれは巨大なスイッチ。下にあるのは遮断機と断続器と避雷器なのだろう。そして巨大な鉄構を線が縦横に張り巡らされている。

(実は変電所施設のサイズを縮小した立役者、ミニクラッドが取り入れられている。変電設備の簡素化、縮小化、維持管理の簡素化の始まりがこの開閉所らしい。また母線は2万アンペアのアルミパイプだ。→http://www5f.biglobe.ne.jp/~takatoshi/135.html


 開閉所を巡るとすっかり暗くなった。暖かいラーメンでも作って食って帰るかな。


秩父開閉所