安方線が走る街

 安方(やすかた)線は大田区の南西を走る鉄塔23本の線路。短く地味な路線だが、私にはとても魅力のある路線である。何といってもかつては東京内輪線の一部を担っていたと思われる歴史ある路線だ。大正15年12月という内輪線成立の年月を記載した鉄塔も残っている。
 安方線の終点は東京内輪線の南の拠点であった六郷変電所。現在の六郷変電所は配電変電所としては広い敷地だが、かつての面影を探すのは困難だ。でも国道に出てみると関電工のビルも見受けられる。かつての電力拠点の名残だろうか。今はこの辺りの電力拠点は第二京浜国道沿いの池上変電所だろう。安方線は現在の拠点変電所である池上変電所と古の拠点変電所の六郷変電所を結んでいる路線なのだ。
 六郷変電所から数本は頭に三角帽子を乗せた矩形鉄塔が続く。かさ上げの跡が見られる鉄塔もあるが、ほぼ原形と思われる独特の姿をした鉄塔だ。安方線といえばやはりこの矩形鉄塔がシンボルだ。

写真:「雑色の商店街の外れに立つ20号」へリンク
雑色の商店街の外れに立つ20号
写真:「24号の三角帽子は扁平で面白い」へリンク
24号の三角帽子は扁平で面白い


 矩形鉄塔は5本だけであとは通常の四角鉄塔と美化鉄柱が続く。安方線のもう一つの魅力はその沿線の雰囲気だろう。工場と商店と住宅が混在する地域が下町だ。その意味では浅草や江東はもはや下町と呼ぶには抵抗がある。この安方線が通るあたりはまさに下町。矢口の渡し、雑色(ぞうしき)といった元気な商店街もある。安方は矢口の渡しあたりの古い地名だということだ。

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安方線12号


 鉄塔はフェンスに囲まれずに、民家の庭先にちょこんと立っているものが多く見受けられる。これは同じ東京内輪線の流れを汲む駒沢線と共通する特色だ。玄関先まで鉄塔の結界をくぐって踏み石が続いていたり、庶民的な街並みと鉄塔がとても仲良く過ごせていることに感激する。

写真:「安方線12号の結界。飛び石が玄関まで続いている」へリンク
安方線12号の結界。飛び石が玄関まで続いている


 そんな安方線にも時代の波はやってくる。以前は公園の中に立っていた16号は、案の定建て替わって背の高い鉄塔になっていた。以前来た時に地盤調査の看板があったのでちょっと心配していたのだが。
 建て替わったのは16号と19号、両方とも背の高い立派な鉄塔だ。17、18号は除去され飛び番となった。16号は広い敷地がフェンスで囲まれていて近寄れないが、駐車場の奥に立つ19号はフェンスなし。うれしくなって結界写真を撮った。

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安方線16号
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安方線19号