尾瀬の只見幹線(群馬側 1日目)

 ここ2週間尾瀬に通って、ついに尾瀬を越える只見幹線にトライする気持ちになった。只見幹線の尾瀬越えを群馬県側の巡視路沿いにたどろう。

奥鬼怒林道

早朝家を出て高速で沼田、そこから大清水へ。8時過ぎにバイクを大清水の駐車場前に止め、奥鬼怒林道を進む。天気はいい。
 途中でトラックに乗った地元の人から声をかけられた。道を間違えているのではと思われたらしい。親切だ。この先には小淵沢田代に登る登山道があるのだが、滅多に入る人はない。
 途中、鹿よけの柵を何度かくぐる。やがて奥鬼怒林道の正面上空から只見幹線133号がおいでおいでをする。その上のより高いところから132号が姿を見せると小淵沢橋だ。

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奥鬼怒林道と只見幹線133号


 9時過ぎに小淵沢橋到着。橋を渡る。この先に巡視路標識があるはずだ。橋を渡って探すと巡視路標識があった。「只見幹線133 電源開発」。いよいよ山道に入る。

とんがり帽子の只見幹線

 巡視路は小尾根をつづら折りに登る。30分弱で133号到着。クマザサの急な斜面に片継ぎ脚で立っている。
 只見幹線らしい大きいオフセット付きの腕金。茶色碍子。そして、とんがり帽子。えっ! とんがり帽子? 只見幹線はコックさんではなかったのか?!
 この辺の只見幹線はとんがり帽子なんだ。

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只見幹線133号
奥の山の上に132号が見える


 振り返ると眺めがすばらしい。谷をはさんで134、135、136号が見える。134号はとんがり帽子、135号はコックさん、136号もコックさんだ。どうやら134号からとんがり帽子になっているようだ。
 134号から135号へ、鉄塔をつないで巡視路がクマザサの中を通っている。向こう側も気持ちの良さそうな巡視路だ。

写真:「只見幹線134、135、136号」へリンク
只見幹線134、135、136号


 道の先を見ると132号がとても高いところに立っている。現在の高度は1450メートル、地形図で確認すると次の鉄塔はぐーんと登って1590メートル。ここから高度で140メートル登るのか。頑張ろう。

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只見幹線132号


 道はちょうど線下を行くように谷沿いを詰めていく。沢を渡る。水はちょろちょろ流れだが、おいしそうなので飲む。
 途中で泥の上に人間ではない大型獣の足跡発見。熊?? いやだなぁ。鹿ならいいいが。熊鈴を威勢良く鳴らしながら登る。

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よく整備された巡視路

四郎岳を横切る只見幹線

 こんどは反対側の谷の壁をジグザグに登って線下の伐採跡に出る。ほぼ尾根、132はすぐそこだ。

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只見幹線132号


 1時間かからずに132号到着。絶景です、絶景。老番側がずーっと見える。風も抜けていて気持ちがいい。
 133号では対岸の3本しか拝めなかったが、こんどはかすんで見えなくなるまでの展望だ。四郎岳の姿が良い。尖った山頂から尾根の線が、まっすぐ緩やかにそして長々と下りていく。只見幹線はその稜線の下側を横切り進んでいく。

写真:「四郎岳西尾根を横切り進む只見幹線」へリンク
四郎岳西尾根を横切り進む只見幹線

隠れ田代に脚広げの130号

 刈り払いされた斜面を登ると道は谷筋に入る。20分ほどで谷筋から緩斜面へと出るとそこに131号が立っている。

写真:「只見幹線131号」へリンク
只見幹線131号

 ここからは緩斜面が続く。130、129、128、127号まで4本見えた。あそこが頂上なのだろうか。
 今12時。でも飯にせず進んでみる。少し先に行けば隠れ田代に着きそうだ。地形図に小さな湿原マーク。Webの下調べでもどうやら湿原があるらしい。
 少し進むとすぐに辺りは高原状になってきて湿原に出る。とても小さな湿原。夏なら花がたくさん咲いているのだろうが、残念ながら秋。花は過ぎたようだ。
 湿原の端に木道が設置されている。この巡視路はとても整備が良い。これがなければずぶずぶと潜ってしまうだろう。

写真:「130号湿原」へリンク
130号湿原
写真:「只見幹線131号と木道」へリンク
只見幹線131号と木道


 湿原の先には130号が立っている。何と変わった形をした鉄塔だろう。塔体のほとんどが腕金で埋まり、そこから極端な裾広がりだ。

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只見幹線130号
奥は129号


 結界に入る。結界の中には一回り小さい古い基礎の跡が残っている。
 これは建て替えられた跡だろうか。現在の基礎は4本の脚をコンクリートで四角くつないだ、頑丈な形になっている。
 ここは湿原なので地盤は悪い。基礎を補強してやり直し、結果として脚を極端に広げた特異な姿の鉄塔になったと推理した。
 鉄塔札を確認してみると昭和34年6月で、他の鉄塔と変わらず運用開始の年月。建て替えは運用開始時には終わっていたのか、それとも鉄塔札を更新しなかったのか。

写真:「只見幹線130号結界」へリンク
只見幹線130号結界


 湿原には花がなかったがこの鉄塔の周りは花を楽しめた。高貴な風情のウメバチソウが一輪だけ咲いていた。これはアザミかな? これはハンゴンソウか、この赤いのは? このうっそうとはびこっているのはイタドリの実かな。サボテンみたいに花を点けているのは何という花なのだろう。
 花を楽しみながら食事にする。

写真:「これは何という花だろう(知っている人がいたらお教えください)」へリンク
これは何という花だろう(知っている人がいたらお教えください)
写真:「花の拡大」へリンク
花の拡大


 129号へ向けて刈り払いした斜面を進む。急ではないが複雑に凹凸がある地形だ。道は右に巻き気味に進んでいき、線下をくぐり、一登りで129号に着く。130号から15分程度だ。I吊りの足長おじさんだ。

写真:「只見幹線129号」へリンク
只見幹線129号


 すっかり天気が良くなって、また暑くなってきた。ゆるやかな傾斜を道が登っていく。20分ほどで128号到着。128号は少し背が高い感じがする。

写真:「只見幹線128号」へリンク
只見幹線128号


 そこからまた15分ほどで127号。ここもなだらかな草原の中。一面のクマザサだ。雪が降ったらスキーをするには良さそうな斜面だ。
 でも雪の厚みで送電線がずいぶん近くになるんじゃなかろうか。ジャンパー線なんか手が届きそうな感じがする。
 スキーが止まらずに送電線につっこむ、ちょっと恐い想像をしてしまった。
 もう2時か。くだらない想像はやめて、少し急いだほうが良いかもしれない。

写真:「只見幹線127、128、129、130、131号」へリンク
只見幹線127、128、129、130、131号
送電線のスキー場(126号から撮影)

尾瀬電発峠

 下から眺めて、127号が頂上かと思ったのは間違いだった。
 131号からここまでクマザサや草に覆われた緩斜面が続いたが、ここで目の前に崖が登場した。126号と思われる鉄塔は目の前の崖の上に立っている。このガケはどうやって登るんだろう。

写真:「只見幹線126号」へリンク
只見幹線126号


 道に従って林を抜けると崖にハシゴがかかっていた。結構急で高さもある。ハシゴを登る。登りは良いが、上から見ると少々怖い。
 ここを降りるのは嫌だなあ。ハシゴにはトラトラロープが結ばれている。でもロープの支点が脚元なので、最初の何段かはロープなしで前向きに降りることになるはずだ。

写真:「巡視路のはしご」へリンク
巡視路のはしご


 はしごを通過するとすぐに126号に出る。道の先を見るとほぼ水平、福島側の空が見えた。ここが頂上だ。
 左右はうっそうとした森林、只見幹線の通り抜ける場所だけが伐採され一面クマザサの原になっている。目の前に125号と124号が見える。広い頂上を3本の鉄塔が送電線を渡している。

写真:「尾瀬電発峠」へリンク
尾瀬電発峠
中央の只見幹線125号と北端の124号


 これはまるで鉄塔の聖地だ。田子倉ダム、そして奥只見ダム、そこから人も通わぬ只見の山中を鉄塔を連ねて来た送電線は、ここで会津から上州へと越える。送電線はこの聖地を踏んで関東平野目指し下り始めるのだ。
 まだ道は遠い。ここから見えるのはまだ山ばかり。でもここより高いところはない。四郎岳の先、片品川の支流を何本も越え、赤城山を抜ければ関東平野が広がる。
 早く一面の平原を眺めたい。旅する送電線のそんな胸の高まりを感じる。


 頂上の中間地点に立つ125号へ向かう。ここは尾瀬沼から鬼怒沼山を結ぶ稜線の道、奥鬼怒歩道が横切っている。そしてその交点に只見幹線竣工記念碑が建っている。

写真:「電発記念碑」へリンク
電発記念碑


 50センチほどの自然石が台の上に据えられて「只見幹線 竣工記念 昭和三十五年五月」と刻まれている。裏には「電源開發株式會社 標高一九六〇米」との文字。
 おや1960メートル? ここの地点は1900メートルだが? 60メートルサバを読んでいるのかい?(帰宅して調べたらこの1960メートルは只見幹線最高地点の高さで、会津駒ヶ岳から大杉山へ延びる稜線を越える場所だった)


 背の高いクマザサの道を福島側へ行くと124号。頂上の平らな部分が切れるところ。ここが今回の最高地点1912メートルだ。この鉄塔が群馬県福島県のちょうど県境に立っている。

写真:「只見幹線124号」へリンク
只見幹線124号

只見への誘い

 124号の少し先まで行くと福島側の風景が開ける。123号はすぐ目の前でI吊り。その次122号は角度で、121号はぐんと低いところにある。


 遠くを眺める。行く手には山だけがある。深く刻まれた檜枝岐川。鉄塔たちはその先からやってきたのだ。
 その先は会津駒ヶ岳から大杉岳へ延びる尾根越え。1861メートルピークの鞍部を越え、そこから北東に延びる長い長い尾根伝いに奥只見湖。そして田子倉ダムだ。

写真:「只見幹線123から若番」へリンク
只見幹線123から若番


 登山地図を見ると1861ピークの鞍部には「電発避難小屋 一般使用不可」と書かれている。この小屋が使えれば何とかなりそうだが、やはりテント担いで行くしかないのか。それにしても水場は期待できそうにない。
 この先の地形図を眺めては、ただただ「深い・長い・遠い」と嘆息。「ここに下りるのはいいけど、そこからどうやって帰るのよ!」と机上の演習すら済んでいない。
 そんな遠くの山々を見ながら呆然とする。でもすぐ目の前、笹原に気持ちの良さそうな巡視路が下りて行くじゃないか。やっぱり誘われるな。檜枝岐川の七入、そして最高地点までならそんなに大変じゃぁない。そのうち行って見ようかな。

尾瀬沼

 15時過ぎ、今日の宿、尾瀬沼に向かって下ることにする。只見幹線とはこれでお別れです。ああ雲がちょっとドラマチックじゃあないか。さよなら、また来る日まで。送電線が私に「ビンビン」と返事をしてくれた。

写真:「只見幹線125」へリンク
只見幹線125


 ここから1時間ほど、小淵沢田代を経て尾瀬沼へと下った。今日は尾瀬沼のテントサイト。板張りでとても快適なのだ。