向ヶ丘線のおだやかな紳士たち 【画像が見つかりませんでした】

線が外された鉄塔たち

 昼過ぎまで野暮用に追われる。ぽかぽかと暖かくなってきた午後出かける。2時間程度回ろうと近場を考え、前々から気になっていた向ヶ丘線を訪ねた。


 向ヶ丘線がまだあるかどうかは心許なかった。最後に見たのは川世線の川崎側を回った時(2006/6/17)だ。向ヶ丘線から川世線まで送電線は引かれてはいたものの、取り付けは胴体に直接だった。すでに使われていなかったのだろう。最終の向ヶ丘線10号はその時にはすっかり赤茶けていた。


向ヶ丘線 10号


 向ヶ丘線に着いた。向ヶ丘線はあったけど無かった。鉄塔は残っていたが、線はきれいに外されている。線のない鉄塔はとても寂しい。


 国道246号沿いにぽこっと残った畑。100坪くらいかなぁ。その隅に立っているのが向ヶ丘線10号だ。向かい側は川世線16号。かつて向ヶ丘線の10号と川世線16号の間には、広い国道を越えて線が結ばれていた。たぶん昔は千南線から分岐していたのだろう。
 結界は泥。鉄骨は下地の茶色の肌がむき出しで痛々しい感じがする。高さは23メートルしかない。現在の都会に生きるには低すぎる。


向ヶ丘線 9号


 向ヶ丘線は身代わり不動の9号から向かい側の丘に。8号は市営住宅だろうか、その裏手。
 なおも丘を登り7号。今度は県営住宅だ。この3本は頭が尖っていない四角い帽子。シルクハット型とでも呼ぼうかな。


 坂道の上に次の鉄塔が見える。
 6号で丘を登り切る。ここはとんがり帽子。ここで広い道を越え5号は進行方向左側の腕金が四角い。ということは送電線は右に曲がっていたんだね。


 向ヶ丘線は何時出来てどこから何処まで結んでいたやら。ケーブルの細さ。昭和30年代のルートなのかそれとももっと昔からあるのか。


向ヶ丘線 8号


 鉄塔に話を聞いても「もう私の役目は終えたんだから、そんな昔の話はしないよ」とニコニコと日だまりに立っているだけだ。

腕金が1本?!

 ここは丘のはずれ、先は崖になっている。
 4号が崖の陰から大きな三角帽子と大きな腕金をにょこっと出していた。高さは24メートルしかない。おまけに一段低いところに立っているので低さが際立って見える。
 その先には新鶴見線が通っている。鉄塔を透かして新鶴見線の鉄塔が見える。この先で新鶴見線と交差していたはずだが、これじゃあ線が接触しちゃうじゃないかと心配になるほど高さが同じだ。


向ヶ丘線 4号

新鶴見線56号


 4号の反対側に回ってみた。4号の向かい側に鉄塔が…、これは面白い! 傘のような1本腕金の鉄塔があった。これ腕金を外したのですかね。それとももともと1本だった?
 ここに6本の送電線を水平配列で通したのだろうか。それには少々腕金が短いように思えるが。


一本腕金の3号


 傘鉄塔3号の下に行くと下部に受けの腕金があった。送電線を引き下ろしていた? それとも「階段鉄塔」になっていた? どうなっていたんだろう。
 詳しく見ていくと腕金の両側に3つずつ座金が付いている。やはり水平配列で6本支持していたようだ。


向ヶ丘線 3号 反対側からの写真

「ゼロのいち」号

 これが向ヶ丘線の最後(最若番)の鉄塔だった。道路の向かいに市ヶ尾線の重角度鉄塔が立っている。番号は何と「市ヶ尾線 0-1」。「‘のいち’鉄塔」は結構多いし、「ゼロ号鉄塔」も珍しいがある。「‘ゼロのいち’鉄塔」とは何とも珍しい。いろいろ事情が詰まっている鉄塔なのだろう。
 0の1号は低く小さいがとても太い鋼材を使っている。腕金を3方向に伸ばし腕金9本の頑丈そうな鉄塔だ。送電線が反対側からやってきているが、線はここで途切れている。


「ゼロのいち」鉄塔 市ヶ尾線0-1号


 向ヶ丘線が3で終わるというのも気になる。市ヶ尾線の「0の1」に至っては何なんだ! 0-1鉄塔はかつて向ヶ丘線2号、次の市ヶ尾線0号鉄塔が1号鉄塔であったに違いないのだが。向ヶ丘線の廃止で残った鉄塔にゼロとゼロの1を割り振ったんだろうか。


 到着したここはちょっとした送電線銀座だった。この先で送電路がT字型に分岐する。交差点からは南に市ヶ尾線、西には菅生線が延びている。向かい合った2本の鉄塔の一つ(市ヶ尾線1号)は送電線を引き下げていたような構成をしている。


 謎を秘めた鉄塔たちに囲まれ、薄暗がりの中で今日の小さな旅を終えた。


市ヶ尾線 1号の前後振り分け型腕金

市ヶ尾線 0号