残された丘の上


 雨はしとしとと降り続く。22号も丘の上。小さな谷を挟んでいるので眺望が効く。でも雨で景色は白く濁っている。並行して進む鉄塔たちが見える。位置からして港北線だろうか。

22号からの風景


 私が子供の頃はこの辺りはまったく開発されていなかった。弘法の松という名所があり、親父とハイキングに来た。生田から柿生まで歩いたような記憶がある。弘法の松自体の記憶はないが、そこから見た風景は未だに覚えている。
 谷の低いところには農家や田んぼがあったのだろうが、山の上からはうかがい知れない。ただただ低い山並みが視界の限り幾重にも重なっていた。
 今は視界の限り住宅が広がっている。半世紀前の話とはいえ、住宅開発と一言で済ますには規模が大きすぎる話だ。世の中は想像をはるかに超えた変化をするものだ。


 柿生線24号まで来た。ちょうど尾根上になった土地の上に立っている。造成地はここで一旦切れる。階段を登ると丘の上には畑と林、1本の泥道が延びている。


 すぐ下には住宅地が迫っているが、この尾根の上だけはまったく手つかず。泥道なんて昨今、田舎にいっても味わえない。鉄塔はその道際に立っている。


 25号はいかにも古そうな鉄塔。もともとI字吊りの鉄塔なのだろうが、最下段はバランス耐張に変更されている。とても、とても田舎仕様。
 この鉄塔も2段屈曲なのだが下部の広がりは今までの鉄塔と比べ少ない。控えめな美しさが印象的だ。
 フェンスはなく結界の中に入れる。降り続く雨に向かってレンズを向けて結界写真を撮る。

柿生線25号
柿生線25号 結界写真


 雨はたんたんと降り続く。湿った冷たい空気の中に土のにおい。宅地開発の中、最後に残った昔ながらの風景なのだろう。丘の先にはまた住宅が広がっているのが見えた。