用水と1回線鉄塔
(5月27日の日記の続き)
雨が激しくなる。緑地の向こうに次の鉄塔が見える。雨の中、緑地の中を下る。何ということだ行き止まり。泥道を登り返す。
ぐるっと回り下り坂に出た。景色が広がる。晴れていたたら多摩川が見えるだろう。でも今日はすっかり煙って見えない。手前の木々の間を見ていたらクリーム色に塗られた小さな鉄塔を発見した。おや1回線鉄塔ではないか。
1回線鉄塔が工事中のマンションの前に立っている。小さな鉄塔は巨大なマンションに飲み込まれそう。
この低い鉄塔がこの辺りで一番高い構造物だった時代もあるだろう。時の流れを嘆いているのだろうか、鉄塔はとても悲しそうに見えた。願わくばマンションの新住民がこのかわいい鉄塔を大事にしてくれれば良いのだが。
神社の脇から下界に出た。目の前に1回線鉄塔の続き、クリーム色の小さな鉄塔。小田急向ヶ丘線――これって木柱で有名な送電路?! 送電線に沿って少し進んでみる。予想通り川を跨いで木柱が並んでいた。こじんまりとした用水とそれを跨ぐ木柱。
鉄塔の横は円筒分水という分水堰になっている。サイホンの原理を利用し、水があふれる丸い堰、その円周を区切り分水する。とても面白い仕組みだ。まんまんと水を溢れさせる堰のかたわらに小さな1回線鉄塔。そして用水沿いに進む木柱の送電路。ほっとするような風景だ。
分水のかたわらの小田急向ヶ丘線17号鉄塔は結界の中に入れる。でも小さいのでアングル材に頭がぶつかりそう。鉄塔には「頭上に注意してください」という小さな看板がついていた。こんな看板はじめて見た。「頭上」のところは後から書いたようだ。もとは何と書いてあったのだろうか。
分水堰は文化財に指定されている。でも隣の木柱は文化財じゃない。分水堰のほうが古いとはいえ同じ歴史的遺構だと思うのだが。
最近は近代化遺構というテーマが脚光を浴びている。工場の跡地などいろいろな遺構が保存の対象になっているようだ。でも古い鉄塔が保存された例は東京電力の電気の資料館ぐらいだろう。東京都内でも駒沢線や杉並線、相武線、亀戸線など歴史的に貴重な鉄塔は多い。
…もっともこれらの線はみんな現役、遺構ではない。私としては現役を引退しないでがんばってもらったほうがもっとうれしい。
思わぬ木柱との出会い。予定を変更して木柱に沿って歩きたかったがここは初志貫徹で川世線に戻る。
(続く)