秘密の畑

下総変電所

5月21日の日記続きの続き)
 下総変電所は地形図にも名前が載っている大きな変電所だ。花総線の引留鉄塔から直線で1キロくらい、京葉道路沿いのとても広い敷地の中にある。
 門の奥に鉄塔や鉄構が見える、表札は「京葉支社 別館」。右手奥の大きなビルへまわる。ここの表札は「船橋センター」。ぐるっと一周したが変電所の表札は拝めないようだ。残念。
 変電所は鉄塔たちの聖地だというのに表札を出していない、何と恐れ多いことだろう。それとも聖地だから隠しているのか?


 京葉道路を超えて反対側から拝もう。大きく迂回して陸橋を渡り京葉道路の向こう岸へ。


 どこかの運送会社の駐車場だろうか、トラックがたくさん停まっている。そこを横切ると畑がある。その向こうに京葉道路をはさんで鉄塔が立っている。もっと近づく。何年も前に舗装がはげた道路を進む。小さな道が京葉道路に沿って奥へと分かれ、入り込むと川があり橋がある。その先で行き止まり、下総変電所をもっとも近くから参拝できる場所だ。


 やはり変電所はいい。鉄塔が何本か立ち並び、こちら側に向って送電線が伸びる。送電路は2つ、それぞれ4回線、24本の送電線が道路を越え埋め立て地の方向へと出発する。鉄塔は銀色に輝き、送電線は道路など気にもせず伸びる。空を行くものたちは自由だ。


海神線2号、市船線3号 この下総変電所の参拝地点にひとりのホームレスが住んでいる。どん詰まりの猫の額ほどの土地に小さな畑、作物が育てられている。「おじさんが作ってるの?」畑を作るホームレスとひとしきり話が弾む。
 「地主さんと買い手が決まったら出て行く話がついているんだ」と言っていた。売れるかなぁ、住居には向いていないし、工場を建てるには狭い、建って小さな倉庫ぐらいだよな。2人でなかなか売れまいと結論を出す。


 真夜中まで車の音がうるさいだろう。でもここは別天地だ。私もホームレスになったらここに来ようかな。花総線が教えてくれた船橋の秘密の場所。きっと何回も通ったからそっと教えてくれたのかも知れない。


 ホームレスの住居を見下ろす丘の上に鉄塔が2本。夏草が生い茂り根元に入るのは難しそうだ。大きな工場の敷地内かも知れない。戻って次の鉄塔で鉄塔名を確認することにした。
 埋め立て地の広い角に次の鉄塔、海神線3号と市船線4号は立っていた。
海神線3号、市船線4号 海神線、何ともありがたい名前だ。海神(かいじん)は船橋にあるとても古い地名。海の神で「わたつみ」とも読む。併架しているのは京葉港線。もしかして千葉港を横断する大鉄塔のスタート地点?そうかこの先で左に曲がって…だいぶんこの辺りも見えてきた。
 市船線。この線はおなじみだ。江東線と一緒にこの辺りまで追ってきたこともある。今日はちゃんと出発点を確認できた。


 じゃあ今日は市船線で戻ろう。これをたどれば隣町の塩浜まで行ける。途中、江戸川の堤防に出て休む。江戸川河口もとても好きだ。27万5千ボルトの江東線も6万ボルトの市船線もどちらも立派な赤白鉄塔。川の青にとても映えている。海から戻り川を遡る船が鉄塔を横切って行く。
 隣町の浦安・市川・船橋、そして松戸も回らなきゃ…江戸川の河口でそんなことを決めた。

江戸川河口の市船線


5月21日の日記 終り)