中富線 早回り4 夜空の地図

所沢付近の中富線

4月30日の日記続き続きの続き)[5月3日の日記はこちら
 どんどん暗くなる。でも空はまだ薄明るい。まだまだ行ける。細い道に入ると思わぬ回り道になるかも知れない。なるべく広い道を選んで進む。どんどん畑が多くなる。ゆるやかに大きな丘が連なる。そこを送電線は真っ直ぐに、私は大きく左右に振られながら進む。


 家が建て込んだ場所では送電線はすぐに見失う。でもこの辺りでは離れていても鉄塔の姿が暗い空に浮かんで見えている。
 直列した鉄塔の横に出る。写真を撮る。もう暗くてぶれるだろう、でも鉄塔の姿が見える最後の1枚だ。あの丘の先、そのまた先に私と鉄塔たちの目的地が待っている。


中富線18号
 そろそろ10番くらいまで来ただろうか。大きな通りで赤白鉄塔の横に出た。バイクを停めて根元まで確認しに行く。18番。やれやれまだ遠い。


 すっかり暗い。どうやら今夜は月は出ないようだ。地上はヘッドライトが照らす道路以外まっ黒に塗りこめられている。でも暗い空に鉄塔と送電線は不思議にちゃんと見える。
 『鉄塔 武蔵野線』を思い出す。1号鉄塔にたどり着く前に夜がやってくる。美晴少年は広い河川敷の手前に立つ鉄塔で野宿を決心する。別れ家へ戻るアキラに言う。

「いいか――、帰り道は、ずっと鉄塔を辿ってくんだぞ。
 …中略…
鉄塔は地図と同じなんだ」

 アキラもこんな風に暗い夜空に黒くまっすぐ描かれた線を眺めながら自転車を走らせたのだろうか。


中富線6号
 しばらくして送電路を横切る道に出た。鉄塔も道際に立っているようだ。近寄って確認。「中富線 6」、ついに番号は10を切った。行きかう車もない真っ暗な広い道をユーターン、送電路に並行した細い道へ進む。


 林を抜けると風景が開けた。さあカウントダウンだ。畑の中を中富線に沿って広めの道が延びる。右手から見知らぬ送電線がやってきて頭上で交差、左手遥か彼方へと消えていく。中富線は高く左から右の丘へと飛び移った。
 夜の畑を鉄塔と走り抜ける。丘の上を鉄塔が並んで立つ。5・4・3…。
 道はまた林の中へ。暗い洞窟のようなS字カーブを抜け林が切れる。と前方の夜空に何本かの鉄塔が集結していた。やった、ついにたどり着いた。


中富線2号
 手前の鉄塔に狭い道が向かっている。曲がって鉄塔の足元へ行く。ヘッドランプで鉄塔を照らす。「中富線2号」。たぶんこれが確認できる最後の番号看板だ。送電線の延びる方向を見る。闇を透かして暗く見えているのは1号? たぶん変電所の中だ。バイクを降りて最後の看板写真を撮る。


中富線1号
 「東京電力 武蔵赤坂開閉所」その外れに中富線の1号と思われる鉄塔は立っていた。碍子の数、2導体、間違いないだろう。中富線最後の1本は小ぶりな鉄塔だった。鉄塔のそばに寄り写真を撮る。周囲に明かりはまったくない。カメラに付属の小さなストロボの光はかろうじて鉄塔を照らし、塔頂票の「1」を写してくれた。


中富線1号
 武蔵赤坂開閉所。たしか武蔵野線(今は武蔵赤坂線というのかな)もここを通過しているはず。広い開閉所には多くの送電線を支える鉄塔も見える。見てみたかったが今日はもうお終いにしよう。
 そうだ今度は武蔵野線をたどってやってこよう。帰りかけると真っ黒な林の影に小さな鉄塔が。あれは武蔵野線なのだろうか。


 どこか広い道に出たいが、どこに来たのかもう皆目分からない。夜空がうっすらと明るくなっている方向へとバイクを走らせた。
4月30日の日記 終り)




追記:鉄塔の番号看板。東電の鉄塔でも黒字のものと青い字のものがある。どうやら青字のものは反射塗料が塗ってあるようだ。写真を見てびっくりだ。塔頂票もとても光っている。これも反射塗料だろうか。