海沢の義兄弟

日原線2号



 暗いうちに起きだし朝食を採って出かける。海沢まで川を下る。今日は氷川発電所近くの鉄塔に登る予定だ。
 海沢に出ると朝霧が切れ始めた。対岸の斜面を見ると日原線の鉄塔が紅葉と朝霧をまとい、朝日を浴びて立っている。とてもすがすがしい朝だ。


奥多摩線1号、多摩川送電線17号 東京電力氷川発電所のある海沢は多摩川と海沢谷の出合いにある集落だ。多摩川と海沢谷に挟まれた稜線が谷に落ちる直前、高さ5、60メートルほどの肩の上にふたつの鉄塔が並んで立っている。今日はまずこの鉄塔の根元に登ろう。



奥多摩線1号、多摩川送電線17号 この鉄塔をはじめて見たのはひと月ほど前、とっぷり暮れた夜だった。カメラをザックにしまいこみ、夜道を小河内ダムへ向かって走っていた。曲がり角でふと見上げると、頭上に鉄塔のシルエットがふたつ。
 車も絶えた谷の道。星の光を浴び天上から見下ろす鉄塔。真っ暗な谷底から見上げる私。鉄塔と私だけの密やかな会話。こんな鉄塔との出会いもある。


 崖下の民家脇から少し古びた巡視路標識に従って登る。道は踏み分け道、とても細い。最後の詰めは岩が露出した急斜面になった。頂上の岩の影に、集落の守り神なのだろう、小さな祠がまつってあった。


 狭い肩の上に奥多摩線1号と多摩川送電線17号が並んで立っている。どちらも小さな四角鉄塔。2本はとても仲良く並んでいるが、管轄が東京電力東京都交通局、出発点が氷川発電所多摩川第一発電所と所属も出身も違っている。だから「海沢の義兄弟」。


 奥多摩線1号は奥多摩線最初の鉄塔だ。氷川発電所から上ってきた送電線を受け取り下流方向へ線を伸ばす。ボルトに土が溜まり苔むしている。山の鉄塔だなぁ。ご苦労さま。
 多摩川送電線17号は小河内ダム多摩川第一発電所からやって来る送電線の最終鉄塔だ。ここで氷川発電所へ線を降ろす。


 この多摩川送電線17号がとても面白い。送電線はダム方面からやって来て目的地である氷川発電所の遥か上空を素通りしてしまう。そしてこの17号鉄塔で180度方向を変え谷底へと降りていく。山を使ったダイナミックな線の取り回し。名付けるなら「Uターン鉄塔」だ。


 山の上から真下に発電所が見えるだろうと思っていたが、案に相違して木に隠れて発電所は見えない。残念。
 鉄塔の横にまた巡視路標識がある。奥多摩線2号へここから辿れるようだ。尾根伝いに4号までは道があると予想している。行きたいが今日は計画がいっぱい。また来ようと引き返す。
 さっきの岩場を避けれないかと道を探す。違う道が下につながっている。今度はとても良く整備された道。どうやらこれが本道のようだ。道は上流の養魚場の脇に抜けた。


続く