夫婦鉄塔

南太田線3号

(1月9日の続き)
 大師線の辺りから下流を眺めると、います、います。何本も鉄塔が見えてきた。のどかな川辺を遠くの鉄塔を眺めながら歩く。


 多摩川は東京の西を限る川だが、北・東を限る荒川や江戸川に比べれば小振りな川だ。関東中の水を集めて流れる荒川や江戸川はたしかに大きい。しかし多摩川は東京の奥地で発し東京湾へ注ぐ。東京にとっては格別の意味を持つ川だ。
 普段の水量はたいしたことはない。でも川の長さが短いだけに大雨が降ると一気に恐ろしい量の水が流れる。だから河原が広い。中州も多く点在する。その間を川が流れている。
 そんな多摩川だが、さすがにこの辺りまで来ると堂々とした水量をたたえている。


 広い水面にたいへんな数の水鳥が浮かんでいる。初老の夫婦が川辺に腰を下ろして餌付けをする。水鳥達が周りに群がる。遥か上に鳶がくるくる回っていた。
 空も青、水も青。多摩川下流域――川崎の工業地帯――かつて公害の代表地域だったこの辺り。水はいたるところで泡立ち灰色だった。こんな美しい日が来るとは思いもつかなかった。


 川の対岸に目を向けると工場群の中にさまざまな鉄塔。引下げ鉄塔、門型鉄塔、赤白鉄塔も見える。美化鉄塔も見える。門型鉄塔は川と平行に伸びているようだ。あれが大師線の続きなのかなぁ。鉄塔の間に間に工場の煙突から白い蒸気が立ち上る。


 低く舞う水鳥の向こうに赤白鉄塔が近づく。どうやらここから下流には2系統の送電路が川を渡っているようだ。手前の経路はやはり鉄塔3本で川を渡る。おや東京側の鉄塔も川粼側の鉄塔もそこから先に線が伸びていない。フムフム、川の間だけ空中に架線して前後は地中線というパターンだな。


 青い水面に赤白鉄塔がすっごくきれいだ。でもまだ何か変。最初は矩形鉄塔だと見えた。矩形鉄塔が腕木を伸ばした赤白猫耳鉄塔と見えた。でも基部が分かれている。確かに上部は一体になっているのだが、基部はふたつ。ふたつの四角鉄塔の上部に横に何本か梁を渡し一体化している。
 わぁっ!!やったー!!こんな鉄塔がいる――六郷用水の水門もろくろく見ずにずんずん進む。川の中に立っている鉄塔は腕木付きの矩形鉄塔。これも美しいが、川の前後、四角鉄塔の上がつながった、何て言うのだろうか、夫婦鉄塔とでも呼ぼうか。3本とも私の好きなV吊り、碍子だって20個近くはある。キャッキャとはしゃぎたかったが人目もある。


 東京側の鉄塔の根元に下りる。南太田線3号。広めの金網とコンクリート塀に囲まれた敷地を覗き込む。3回線の鉄塔。3回線9本が地上に引き下ろされている。コンクリート塀の隙間から地下ケーブルについている看板をウォッチ。南太田線1番と2番、15万ボルト。
 3番の看板がない。おや3回戦目は引き下ろされてはいるが、どこにもつながっていない。とんでもない大機密を知ってしまったようで偉くなったような気がする。「教えてやろうかぁ」何て――いう相手がいないのが残念だ。


 ここでコーヒーブレイク。マンション入り口の自販機で温かいコーヒーを買って土手に腰掛け飲む。温かく豊かに河原を包み込んできた光も柔らかな赤いスポットライトに変わっていた。もう河口。たぶん最後と思われる1系統がすぐそばを渡っていた。
(続く)