ブルーシートと赤白鉄塔

亀戸線111・112号

(前回の続き)
 雨は朝のうちに止んだのに風が収まらない。季節はずれの風台風。ニュースは東京地方で観測史上最高の風速を記録したと報じている。川越しに亀戸変電所の鉄塔を撮ろうとやってきたのに歩くのも骨が折れる始末だ。写真を撮ろうにも体が風に揺さぶられ手振れ必至。でもすっこ抜けの空。綿のような千切れ雲。視覚だけは絶好の写真日和だ。風の息を必死に読みながら写真を撮る。


 亀戸線は松島変電所から川越えに入る。次は中土手に立つ赤白鉄塔110号。対岸はもう終着地亀戸変電所だ。そこに2本の鉄塔が立つ。荒川を越えやってくる送電線をつなぎ止める111号。その脇、低いところに控え、111号から手渡された送電線を変電所に送る112号――最終鉄塔。


 110号は空中地線をつないぐ最上段の腕木が片方に飛び出してついている。亀戸線空中地線は1本だから鉄塔もとんがり帽子が普通だろう。理由は分からないが111号は1本しかない空中地線を腕木を伸ばして受け止める。それがちょっと威張った鳥のくちばしのように見える。「亀戸線の怪鳥」だ。
 背の低い112号は線の取り回しがとても素敵な鉄塔だ。送電線にいくつもの半円を描かせ、碍子が踊るように配置されている。「亀戸線のタコ」と名前を付けた。タコのダンスは向こう岸に行かないと見えないが110号は中土手から遠望するに限る。

 荒川の水際には茅の中にある踏み分け道にもぐり込んで近づく。水際に抜け対岸を眺める。出足が遅かったので逆光気味だ。少しでも光が回り込むよう下流に進む。水際に沿って踏み分け道が1本通っている。この道沿い、ホームレスの住居が数百メーター毎に建つ。


 荒川に住むホームレスの住居は段ボールではない。各種の廃材を組み合わせて作った立派なバラックだ。振り向けば抜けるような青空に赤白鉄塔。強風が背の高い茅をなぎ倒す。その先にブルーシートを巻きつけたバラック。なぜか温かく懐かしい風景に感じる。でもこいつは撮りきれんなぁ。
 そろそろ引き返すかと思い始めた頃、一軒のバラックの横にホームレスのおじさんが2人、何やら自転車の部品をいじっている。踏み分け道ゆえすぐ横を通りすぎる。「こんにちは」と声をかけたらニコッと素敵に笑ってくれた。写真の収穫はあまりなかったけど、今日はとても良い一日だ。また来よっと。




*空中地線 送電線の上部に1本ないし2本の細い電線が渡されている。この線は鉄塔を通じて接地されており、落雷から送電線を守る。これを空中地線と呼ぶ。近年はこの空中地線の芯に光ケーブルを通しデータ通信にも利用されている。