大叉鉄塔

 大牟田市は三井炭鉱の街だ。その街の歴史的景観として鉄道の上を連なる送電鉄塔を残したいという相談があった。近代産業遺構というやつだ。写真を見るとこれが素敵な鉄塔たちだ。分類上は大叉鉄塔になるのだろう。路線名は「港三池旧線」というらしい。(この鉄塔たち鉄道ファンの方々によってたくさん紹介されている たとえば「コウさんのコウ通大百科 PART1」(http://blogs.yahoo.co.jp/kousan_1977/64858847.html)など 不思議なことに鉄塔ファンの紹介がない。頑張れ! 九州の鉄塔ファンさん!)
 この形の鉄塔と同じものが藤沢にあるとWebで発見(「絵寝雑記」http://omadragon.s1.xrea.com/cgi-bin/nicky.cgi?DT=20120904A)。大牟田は遠いが藤沢ならすぐに行かなければとバイクを走らせた。

用田線15号鉄塔

 目的の鉄塔は「用田線15号」鉄塔だ。地形図などで辺りをつけていたのですぐに分かった。自動車工場の中だが塀際に立っているので根本まで良く観察できる。
 なるほどこれは凄い。超おもしろい。超足長おじさん鉄塔ではないか。


写真:「用田線15号(遠景)」へリンク
用田線15号(遠景)
写真:「用田線15号」へリンク
用田線15号

謎解き

 しかしここに突如大叉鉄塔が現れるのは不思議だ。前後の鉄塔は通常の四角鉄塔。この15号も川を跨いでいるわけではない。
 謎はすぐに解けた。線下は何やら不自然な雰囲気がある。自動車が1台も止めていないコンクリート舗装の駐車場があったり、柵に囲まれた平屋建ての施設があったりする。施設をチェックする。「神奈川県内広域水道企業団 葛原供給点」とある。ふーん水道関係の施設か。

写真:「不自然な雰囲気」へリンク
不自然な雰囲気


 地形図を見直してみると青い点線が引かれている。これは農業用水や上水道の地下水路を表すマークだ。鉄塔ファンなら水力発電所の導水路でお馴染みのマーク。
 なるほどこの下には地下水道が引かれているのだ。鉄塔は地下の水道管を跨いで立っていたわけだ。
 地形図には「横須賀水道」と書かれている。家に帰って調べたらこれは歴史的な上水路だそうだ。軍都「横須賀」を支える水道は大正時代には愛川町半原(現在の宮ヶ瀬ダムのあるあたり)から横須賀まで約53kmの地下水路が引かれていたという。
 そんな歴史を知っていたらもっと詳しく調査したのだが、この時は面白そうなので少し上流側の水路上を歩いてみただけ。車通りを制限しているまっすぐな道が続き、神奈川県水道局のマンホールが点々と繋がる。その先にたしかに15号大叉鉄塔が立っていた。

写真:「地形図」へリンク
地形図(国土地理院 2万5千分の1地形図「藤沢」)
写真:「用田線15号」へリンク
用田線15号

「叉」の字

 このタイプの鉄塔は古い鉄塔の教科書に登場する。しかし「叉」の字がかすれていて「又」と区別が難しい。2角の「又」は原義は「て、みぎのて、みぎ」意味で後に副詞の「また、さらに、ふたたび」の意味に当てられた字。中に点が打たれた3角の「叉」は「指爪ではさむ形」が原義で、後に「交叉・分岐する状態」の意味になったという。「さすまた(刺股)」の意味もある。この鉄塔は「大きなさすまた」もしくは「おおきく分岐した」という命名だろうから「大叉鉄塔」と表記することにした。読みは「だいさてっとう」と読むのが自然だろう。

神田川の大叉鉄塔

 なお大叉鉄塔はかつて東京にもあったようだ。神田川沿いに淀橋変電所まで送電路が延びており、その神田川を跨いで鉄塔が連なっていたようだ。(『鉄塔見聞録』「歴史ある幹線鉄塔 66KV淀橋線」http://transmltkbr.sakura.ne.jp/soudenn66.html
 紹介されている写真は矩形の大叉型で用田線は四角鉄塔の大叉型と差がある。三池の大叉鉄塔にも四角鉄塔矩形鉄塔が混在しているが、写真で見る限りは送電路が曲がっている場所が矩形になっているようだ。