鉄塔レストラン

亀戸線100号

 すてきなレストランを発見してしまった。家からは少し遠いのだがノートパソコンを抱えて窓際で仕事をする。窓の外には亀戸線の100号鉄塔が立っている。仕事もしないでこんな妄想にふけった。

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鉄男
「あーよかった。この席空いていた」
エルメス
「この店よくいらっしゃるんですか」
鉄男
「あ、いえ、よく」
エルメス
「でも家からは少し遠いですよねぇ。こういう店がお好きなんですね」
鉄男
「そ・その、理由は、あの…あ、いえ、何となくですぅ」
エルメス
「あら、あそこに鉄塔が立っているわ。」
鉄男
「え!エルメスさん鉄塔見えるんですか?」
エルメス
「見えるってあんなに大きいんですもの、見えないわけないじゃないですか。そんなにわたし目、悪くありません!」
鉄男
「ご、ごめんなさい」
エルメス
「そんなことないわ。さっきからチラチラあっちを気にしてたじゃない。それで分かったの……鉄さん! 」
(やばー!俺が「鉄オタ」だってばれちゃった。これでお終いだぁ〜〜〜〜ッ!)
鉄男
「いや、ぼく、絶対に、断じて、誓って「鉄」じゃないですから」
エルメス
「え〜? だって鉄男さんじゃない。へんなの?」
鉄男
「あっ?そうでしたね。あはは・・・・・」
エルメス
「でも鉄塔っていつもずっと立ってるのね。たいへん!」
鉄男
「80年以上立ってるんです…いや…かなぁ」
亀戸線の出来たのは何と大正なんですよ。この鉄塔も大正13年からこに立っているんです。立ったころはきっと水田が広がるすてきな場所)
エルメス
「向こうにも鉄塔がみえるわ。何本くらいあるのかしら」
鉄男
「えーと100本あっま…あ…たくさんあるんでしょうね」
亀戸線は最終鉄塔が109号、そして今エルメスの瞳に映る鉄塔は切り番の100号。ボクは100号鉄塔に君を見せたくて)
エルメス
「送電線ってどこ行くのかしら?山奥までつながってるのかなぁ。何かロマン!」
鉄男
「そ、そうですね。」
(埼玉の北葛飾変電所まで行って、そこからパワーアップして新野田変電所、そこで50万ボルト外輪線に接続すると、もうそこからは福島でも長野でも、新潟までも行けるんだ。でも本当は亀戸線から出発したら新潟の中津川発電所へ行くのが正しいんです!栄えある上越幹線の終端を担った鉄塔なんですから!!!)
エルメス
「あらどうしたの鉄さん涙ぐんじゃって」
鉄男
「ぼ、僕エルメスさんと鉄塔の話ができて幸せで幸せで――」
エルメス
「変な鉄さん?!」
 ボクの目にはエルメスと僕が鳥になって送電線の上をどこまでも飛んでいく光景が見えていた。エルメスは左側の線をボクは右側の線の上をどこまでも飛んでいく。そして疲れたら一番上の腕金に仲良く座って街の明かりを眺めるんだ。
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‘頑張れ鉄塔男!’果たしてエルメスとの恋は成就するのだろうか――というお粗末でした。