山上の霊園

東京電力氷川発電所



2005年10月30日の日記続きの続き)
 白丸ダムを後に上流へと辿る。
 この辺りに来ると谷は深くなり山は高くなる。道筋からは送電線の確認が難しい。


 送電線を眺めようと白丸の集落をジグザグ上へ上へと登る。向かいに遠く奥多摩線の鉄塔が2本遠く見える。行き止まりでおじさんが出てきて話をする。
 遥かかなたの新秩父線の鉄塔、大きいですよねというと、「丹波川沿いに進むんだよ」と、五日市の変電所と結んでいるというと、「ああ変電所がありますよね」と答えが帰ってくる。
 別に送電線のファンではないのだろうが送電線を知ってくれている。嬉しい。


 「この辺りの山はみんな植林だから紅葉は岩山のところにしかないんだ」とおじさんは残念そうにいう。
 「杉は売れなくなって、昔は子供でも山に入って仕事をしたけど今は誰もやらない。それでも檜は時々売れる。今日もヘリコプターで檜を運ぶのを見ていた」。関西方面へ売れるのだそうだ。「寺の建築にでも使うのかね」。
 帰りがけに「向かいに見える送電線は霊園の中にあるんだ」「いい写真撮ってね」と励まされる。今度来るときは「いい写真」を持って来よう。


日原線1号 街道を奥へと進む。左手に谷を渡る橋、頭上高くに鉄塔。送電線が谷底へ。そこに発電所があった。東京電力氷川発電所だ。奥の山肌を1本の太い導水管がドンと下りて来る。
 山の上の鉄塔は奥多摩線。多摩川の上流方面からは別の線。そしてもう1本。日原線が北からやって来る。みな1回線の送電路だ。
 発電所のそばに日原線の1号鉄塔が立っている。1号ということはこの発電所が出発点。日原方面へ送電している線だろう。


 日が暮れる前に白丸のおじさんが教えてくれた山の上の霊園へ向かう。
 霊園には墓参と見学の人以外は立入禁止と書いてあった。でも都合がよいことに私、墓を購入中。聞かれたら「見学」と言えば良い。
 どんどん登る。無理やり作ったようなキツイ自動車道を登る。頂上に着く。奥多摩の山の頂上にある霊園。とても眺めが良い。多摩から秩父への山々が一望できる。青く沈んでいく山並み、遥か下の川筋は闇に紛れ始めている。
 黄昏時の墓場。普通は怖くなりそうなものだが、山の冷気がとても清浄な雰囲気を作っている。


奥多摩線4号 今度買う墓には20年前に死んだ親父の骨も入れることになる。親父は毎週山に通っていた。もちろん多摩の山も愛した。広がる山々は親父に連れられて来た山々。最高の墓かも知れない。
 今度新しく入るお袋も野草が好きで晩年には山にも行っていた。きっとこの辺りにも来たのだろう。そしてそのうち入る私は鉄塔趣味、奥多摩線4号鉄塔、小さな1回線鉄塔の下に眠るのも良い…でもここじゃ墓参りする子孫が不便だと恨むだろう。提案は見送ることにするか。


 知らぬ間に日はもう落ちていた。明かりが灯る前に氷川発電所まで戻った。1回線の送電線が谷の奥へと延びている。もう小河内ダムも近い。最奥の発電所を辿る旅はいよいよ大詰めだ。