背高泡立草と鉄塔

潮止線・花畑線

 環七に面して花畑変電所という素敵な変電所がある。この変電所から北に延びる路線は4つ、足立線、花葛線、潮止線、花畑線。きれいな名前が多い。
 このうち花畑線と潮止線はほぼ並行して北に進む。だから2路線を交互に楽しみながら辿ることができる。


 花畑変電所を出た送電線の下は工場と住宅が混在。でも空き地もところどころに見え、建物の密度がぐんと薄くなる。都内なのに新開地といった感じ。
 送電線を辿っていくと知らぬ間に埼玉県に入る。そして突然、住宅が切れ広大な空き地が広がる。


 この辺りちょっと前までは一面の畑か水田だったのだろうか。今は造成され使われないまま放り出されているほこりっぽい土地だ。
 工場誘致のための造成だったのか。それにしては工場らしきものも少ない。一面の空き地の中に産業廃棄物の中間処理場や建築重機の置き場などが点在する。それらがまたこの土地を荒々しいものにする。


 この空を2本の送電線が悠然と通り抜ける。
 花畑線は鋼管を使ったずんぐりした頑丈一辺倒な造り。潮止線はアングル鉄塔。背はすらりと伸び上がり、足は優雅に広がる。花畑線は力。潮止線は安定感。とても対照的な鉄塔達が仲良く進んでいく。


 ふと見上げると鉄塔の頂上付近にカラスの大群がとまっていた。天気はぐずぐずと優れない。そんな日には鳥たちも飛ぶのを忘れ送電線に群れるのだ。
 ほこりっぽい荒れ地も秋。背高泡立草(せいたかあわだちそう)が黄色い花をつけている。


 この草、何故か嫌われ者である。明治の帰化植物だが日本中の空き地に広がっている。ススキを駆逐したとか、「ぶたくさ」と間違われ花粉症の原因のように言われたり。
 でも本当は、埋め立て地や造成地――人間が作り出した荒れ地――を黄色い色で覆い尽くしてくれる、とてもきれいな花なのではなかろうか。


 つい最近この土地の真ん中につくばエキスプレス八潮駅が出来た。まだ何もない駅前にはマンションのショールーム、駅の中にはレストランもオープンした。後数年経つと驚くほど、お洒落で衛生的な街に変わっているのだろう。
 処理場は移転を強いられ、背高泡立草は刈られ、カラスは行き場を失い、鉄塔達は高いマンションに埋もれてしまう。