館山の小さな1回線

JR船形線1号

 午後になってちょっと遠出をしたくなった。どうせ行くならきりのいいところ、房総半島の先端まで行こう。バイクで館山まで遠出する。今回は遠いから鉄塔なし。ツーリングに専念するつもり。
 東関東自動車道から館山自動車道へ。快適に飛ばして行く。遠くに送電線が見えてきてはその下をくぐって行く。
  おっ電圧高そうだ。
  うんいい形している。
  やぁ立派な鉄塔だ。
  迫力あるぅー!!
 上を過ぎていく送電線に気分はルンルン。思わず『映画 鉄塔武蔵野線』のテーマソングSAJA DREAMを大声で歌いながらフルスロットルだ。


 千葉は千葉火力からはじまり、五井、姉崎、袖ヶ浦、君津共同、富津火力まで大型の火力発電所が沿岸に立ち並び、首都の電力を支える一大拠点だ。沿岸部の発電所から出た送電線は内陸にある房総や新木更津変電所へ集まる。その中間を突っ切って走るのだから次々に大型の送電線を横切ることになる。とても素敵なハイウェイだ。
 でも高速ゆえ止まるわけにはいかない。まして鉄塔番号や線路名確認など不可能。ちらっと横目で鉄塔の姿を焼き付けながら進む。名前も高さも建造年も分からない、これもまた良い。


 夕暮れ近く館山手前までやってきた。那古船形だ。ちょっと道に迷ったら駅の手前に小さな鉄塔が。今日は鉄塔なしのつもりだったがもう目的地も近い。それに私、小さな鉄塔にはからきし弱い。いそいそと近づく。
 踏み切りに隣接してJRの変電所と鉄塔が立っていた。JR船形線1号。変電所はJR那古船形変電所だ。たった18メートルしかない小さな引留鉄塔。思わず萌え!!
 田圃の中に小さな鉄塔と小さな変電所。何て単純な風景だろう。碍子は6個程度、電圧は6万だろうか。ん!これって1回線鉄塔じゃないか。何ともお宝鉄塔だ。


 送電線は向かい側の山の上から1回線だけ分岐してやってくる。ということは船形線は鉄塔1本だけの経路かも知れない。
 もう止まらなくなった。山の上を伸びる経路を確認したくて田舎道をぐるぐると走り回る。いくら追いかけても里に鉄塔が下りて来ない。小さな袋小路のような谷に入り、洞穴のような小さなトンネルを抜け、ようやく開けてきた。道路脇に立つ鉄塔の足元へ。富浦線3号の看板を確認。


 「富浦線」ていうのか。富浦はやって来た方向、それじゃあこの先はどこから来るんだろう。と見やると遠くの田圃の中に分岐鉄塔が。富浦線は内房線の分岐鉄塔159号からやってきていた。「内房線」立派な名前だ。鉄塔もどこか風格がある。(JRの内房線と紛らわしいので東京電力内房線と書くべきかな)


 内房線は夕日に照らされて田圃の中をどこまでも線を延ばしている。方向は南西。半島の先を目指して進んでいる。やはりその先に行きたくなった。
 夕日はどんどん高度を下げていく。順光でみる鉄塔はオレンジ色に光り輝き、逆光でみる鉄塔はとても懐かしい優しさに包まれている。幸せな瞬間だ。


 しばらく走り東京電力館山変電所にたどり着く。変電所内に立つ175号が最終だった。残照の中に立つ鉄塔や鉄構、旅を締めくくるには最高の風景だ。


 おっともう暗くなる、今日の宿を探さなきゃ。館山の街はいったいどっちなんだ。



 追記1:やっと探した宿は海に沈む夕日が売り物らしい。女将さんが「早くこられたら今日の夕日は最高でしたたのに」と残念がる。思わず館山変電所の夕暮れの話をしたくなった。でも変人と思われるといけないからやめた。海に沈む夕日も良いが“春は曙”、“夕日は鉄塔”に決まってます。

 追記2:帰って来てWebで調べると東京電力ニュースリリース(http://www.tepco.co.jp/cc/press/98031201-j.html)を発見した。富浦線でボルト緩め事件があったらしい。こういうことが続くと鉄塔観察趣味がいよいよ怪しい目で見られる。困ったことだ。でもおかげで内房線と富浦線のスペックが分かった。

  • 内房線
    • 基幹変電所・内房変電所(一次系15万ボルト、住所:千葉県木更津市)から館山変電所(6万ボルト、住所:同館山市)までの約13kmをつなぐ
  • 富浦線
    • 内房線から分岐(千葉県安房三芳町から同富浦町間のこう長4.4km、電圧6万6千ボルト)