新緑の東尾久線

東尾久線28号

 荒川沿いに住んでいるから荒川を渡る送電線にはとても興味がある。そのうちの1本東尾久線を訪ねた。


 東尾久線は荒川を渡りそして隅田川も渡る送電経路だ。でも隅田川を渡ったとたん地中に潜ってしまう。だから都心に向かって東尾久線を辿ると唐突な終り方にがっかりする。
 すぐ隣の千代田線はちゃんと田端変電所に入る。おまけに入る姿が実にどうどうとしていて、私のとっておきの場所のひとつだ。だからなおさら東尾久線が隅田川の端でその先に何も伸びていない風景はとても寂しい。


 今回は東尾久線を環七から北に向かって進むことにする。きっと変電所までずっと送電線と一緒に行けるだろう。
 最初の鉄塔、東尾久線30号は環七のすぐ北側にある公園の広い広場の端に立っていた。等辺山型鋼の伸びやかなフォルムを持つ鉄塔だ。広くゆったりと足を広げ、頂上までゆるやかに角度を増していく。梯子や踊り場など余計な付属物も少なくとても良い感じだ。
 広い広場のこちら側では子供が鉄塔に向かってノックを繰り返していた。


 西新井の狭い住宅地の路地を通り抜け東尾久線は細長い公園の横に出る。懸垂方式も耐張からV吊りに変わっている。何か旅の始まりのような、たとえれば電車から列車に乗り換えるような雰囲気だ。
 この細長公園は何の跡地だろうか、大きな樹木で囲まれどこまでも続いている。送電線もどこまでも続く。同じような形の鉄塔の連続だが公園の中を歩いていくと不思議に飽きが来ない。
 新緑と白く輝く鉄塔。とても気持ちよい。


 公園が切れ住宅地に出る。家と家に挟まれた24号鉄塔。望遠鏡で碍子を見ていたら、一番下段の腕木にカラスの巣を発見した。親カラスだろうか一羽のカラスが腕木から飛び立っていった。
 鉄塔とカラスの巣――事故防止には困った存在なのだそうだ――話は聞いていたが実際に見るのは初めてだ。東電に連絡しようかと一瞬思ったがプロの鉄塔巡回マンが見逃しているわけもないだろう。余計なことはしないことにした。


 少し進むと前方に引下げ鉄塔が見えてきた。送電線を90度近く曲げて道路を挟んだ隣の鉄構に引き下げている。変電所? と思ったが引下げた先には変電施設はなく、四角に組まれた鉄構があった。東尾久線21号と書かれている。
 鉄構の中をじっくり観察した。鉄構の中の送電線と碍子の群れ。最初のうちは何が何だかわからないが、なれてくると配線がすっきり見えてくるもんだ。3本の線を分岐したりつないだりしているだけだから実は単純な配線だったりする。
 まずは2回線地中線に分岐している。おまけに架空線側も2回線をジャンパー線で4回線に分けている。東尾久線は20号までは2回線でやってくるがこの鉄構から4回線に分岐しているのだ。地中線の分岐も含めて2回線が一気に6回線に分岐している。これゃ送電線のタコ足配線だ。


 この21号の上を鹿浜線が跨いでいて21号鉄構の前に鹿浜線13号鉄塔が立つ。そしてその横にとても小さな鉄塔が、東尾久線の次の鉄塔、20号だ。
 4本の鉄塔がひしめいている魅力的なこの地点、都立舎人公園の裏手に位置している。この舎人公園、比較的新しい公園で現在も造成中。最終計画では69.5ヘクタールになるという。すごく広い公園だ。
 環七からここまで東尾久線はほとんど公園の中か公園の脇を通って来ていることになる。東尾久線は公園線だな。


 そろそろ日暮れ、でも東尾久線はまだまだ続く。時間がないので原チャを飛ばして進むことにする。
 川を渡り進むとふと見覚えのある角に。送電線が交差している。おーこれは鳩ヶ谷線との交差点だ。進んでくる方向が違うとまた違った印象がする。知らない土地で旧友にあったようなうれしい気分だ。


 東尾久線はこの先で他の路線に共架され進路を東に90度曲げて京北変電所へと向かった。
 このまま京北変電所に入るに違いないと思っていたら変電所直近で東尾久線の単独鉄塔が復活した。旅の終りをちゃんと締めくくってくれた東尾久線に感謝た。