鳩ヶ谷線の原形鉄塔 1

足立線326号

 連休の最終日。意を決して鳩ヶ谷線まで行った。ちょっと因縁がある線路なのだ。

 足立区の加平、環七に面した花畑変電所に「足立線」という路線がある。この変電所から北側に延びる線路はみな背が大きく立派なものが多い。ただひとり足立線だけが低くこじんまりと地味に延びている。とても気になる送電路。
 ずいぶん以前この線を辿った。辿ってすぐに大正15年12月という古い鉄塔に出会い、ますます期待を持って進んだ。
 線路は花畑変電所を北北西に出発し徐々に北西から西北西へと大きく曲がり延びる。そして突然大きな鋼管鉄塔にぶつかる。鉄塔名は谷塚線8号。足立線はここから谷塚線とともに北へ急角度で曲げられ京北変電所に入っていた。鉄塔名は谷塚線に変わってしまう。残念だ。


 ひとつの鉄塔にいろいろな路線をまとめ、変電所に向かうということは多い(共架という)。でもこのケースはちょっとひっかかった。谷塚線8号の先に足立線をまっすぐに伸ばしたような送電線が延びているのだ。地図で確認すると正確に直線になっている。偶然に異なる路線が1直線になるものだろうか。
 その路線名が「鳩ヶ谷線」。足立線と同じような背格好、同じ地味な雰囲気を漂わせている。


 そのうちに行って見ようと思っていたがなかなかその機会に恵まれなかった。やはり草加・川口はちょっと遠い。
 ある日、昭和初年に完成した送電の環状線「東京内輪線」を『東京電燈50年史』で調べていたらこういう記述に出会った。

花畑開閉所ヨリ埼玉縣下新郷村ニ至ル間既設線路改修。

 新郷村を調べると現在の鳩ヶ谷だ。やはり鳩ヶ谷と花畑変電所を結ぶ路線があったらしい。ずいぶん前の疑問が一気に解けた。足立線と鳩ヶ谷線、昔はひとつ繋がりの線だったんだ。


 連休の最終日。ようやく解けた謎を確認に出かけよう。環七を飛ばして花畑変電所へ。
 花畑変電所を挨拶がてら一周。今日はとても暖かだ。変電所の隣の公園に寝ころんで春の日差しに光る頭上の送電線、個性的な引き留め鉄塔たちを心ゆくまで眺めたい。
 でも今日は先がある。迷わず足立線を辿って北上する。まずは以前、確認した大正15年製の鉄塔に立ち寄りたい。


 足立線の326号は変わらず交差点の少し奥に立っていた。V吊りの四角鉄塔、とりたてて変わったところはない。でも鉄塔に近づき小さな標札を見れば

大正15.12 32M

と書かれていることが分かるだろう。定期的に塗装され、古びた感じはまったくしない。ちょっと地味などこにでもありそうな鉄塔。でもこの鉄塔特別なんです。


 80年もこの角に立って世の移り変わりを見てきた鉄塔。でも何の主張もせずに街道に溶け込んでいる。実に謙虚な鉄塔だよあんたは。
 この辺りも宅地化の波が押し寄せてきている。そのうち全体を見ることが不可能になるかも知れない。ご挨拶がわりに写真を撮らせてもらう。コンビニから犬をつれたおじさんが出てきて、ファインダーの中の特別な鉄塔を事も無げに横切って行った。
(続く)