貴婦人について

船堀橋線2号

 東京電力船堀橋線2号鉄塔はそこそこ大きいし立派な鉄塔なのだけど、これといって特色がない。十人並みの鉄塔だ。でも僕がはじめて愛した鉄塔なのだ。
 酒場で飲んだくれて終電で駅を降りる。家へ向かう途中に貴婦人は静かに佇んでいる。周りに照明が乏しいので暗闇の中に溶け込むようにいる。何も主張せず何も表現せずにただただそこに高く高く居る。
 その静かな気位の高さ。泥酔した僕はその静かさに包まれてしまう。あらがうことなど出来ない。隣にいる妹鉄塔ならふざけたりからかったりできるけど。ひとり住み処に帰る僕にはもうその元気がない。そんな僕をお姉さん鉄塔は何も言わずに見ていてくれる。
 ある日飲みすぎてやり過ぎて自己嫌悪をごまかしながら家路を辿る。そんな時お姉さん鉄塔を探して夜空に目を凝らす僕がいた。