白い巨人

 東京電力青梅線(以下「青梅線」と書く)を後に奥へと進む。この先は梅林で有名なところだ。街道を逸れて裏道を進む。春先は観光客で賑わう観梅通りも今は人影もない。なぜ裏道を通っているかと言えば、先程から山の上を通っている鉄塔が気になるからだ。


 ずんぐりとしたプロポーション。先が尖らず四角で終わる腕金。そして頂上に大きく空に張り出す尖った耳。電圧が高い鉄塔の典型的な設計だ。
 谷を隔てて鉄塔が良く見える場所に出た。双眼鏡で観察する。送電線は1回線に4本のケーブルを組にした4導体。碍子の数は25個程度。50万ボルト級と見た。塔頂の番号標識には30番と書いてある。あの鉄塔は何線なのだろうか。登って路線名を確認したいところだが鉄塔は遥か崖の上、簡単には行けないだろう。*1
 鳶が山の頂きの鉄塔の上を舞っている。奥多摩の山々はのんびりとした穏やかな緑の稜線。そこを白いどうどうとした巨人達が越えていく。


 多摩川の上流方向にもう1回線、送電線が見える。やはり多摩川を横切り北へ伸びている。手前の送電路と似た形の重厚な鉄塔だ。先程の路線よりは少し低い位置に鉄塔が立っているようだ。御岳駅の裏手の道を辿ると「新秩父線No.30に至る」と書かれた杭を発見した。鉄塔巡視路の標識だ。
 これを発見した以上登るしか選択肢はあるまい。バイクを道沿いの空き地に置き、カメラバックをたすきに担いで山に入る。鬱蒼とした杉林の暗い谷。最初は川に丸木橋がかかり整備された印象だった。でも案の定すぐに道はなくなる。谷筋から尾根への急登。ルートとおぼしき辺りを無理やり登る。滑りそうな斜面をトラバースするとポッカリと空があき鉄塔の根本に出た。

 鉄塔は尾根筋が少し平坦になっているところに立っていた。新秩父線30号。50万ボルトの幹線だ。鋼管製のがっちりとした灰色鉄塔。送電線は6本1組の6導体。碍子の数は25個程度だろうか光ってよく見えない。離れて見ようにも辺りは鬱蒼とした杉林。
 首が痛くなるほどの真上だけが鉄塔を見る角度だ。巨大な力を支えるしっかり埋まった土台。そこから太い鋼管が立ち上がり上空遥か1点に収束する。微動だにしない力強い三角形。突き抜ける送電線も力一杯ピンと張っている。


 敷地はきれいに伐採され草が一面を覆い気持ちがよい。草の上に寝ころんでゆっくり味わいたかったがバイクを置いた場所が気になる。そうそうに戻ることにする。
 遠くからセミの声、そして足元からは虫の鳴き声。過ぎ行く夏とやってくる秋。

続く



*1帰路に林道筋に入り巡視路の標識を発見した。この手前の送電経路は「新所沢線」であることが分かった。やはり50万ボルトの幹線である。