中原変電所
川を越え川崎側に入ると新丸子線は街の上を進む。街道を越えて前方に見えて来たのが今回最初に紹介した「帽子が飛んだ鉄塔」、新丸子線の4番鉄塔だ。
細い路地を鉄塔へ向かって歩いたが数メートル手前で行き止まり。ぐるっと迂回してようやく鉄塔の下に到達した。鉄塔は倉庫の奥に立っていた。
そこは南武線の線路際。線路の向こうの空に送電線を送り出している。南武線、横須賀線、東海道新幹線、東急東横線と複雑に鉄道が交差した場所だ。またまた大回りをして南武線の小さなガードをくぐると次の鉄塔へ出た。
3号はとても素敵な鉄塔だった。変わり者ばかりの新丸子線の中にあってはめずらしい標準的な鉄塔。建造年は大正15年――「帽子が飛んだ」4号と同じ年月日だ。
古いタイプの四角鉄塔、このタイプの鉄塔は好きだ。缶コーヒーを飲みながら鉄塔を眺め一服する。
もう武蔵小杉の駅。駅の手前の公園にずんぐりむっくり、小さく太めの2号。無骨な奴。
鉄塔横の敷地では大規模な開発が行なわれていた。「武蔵小杉駅前グランド地区開発プロジェクト」。共同住宅、商業施設、市民利用施設が生まれるらしい。
きれいな街になると2号のような無骨な鉄塔が似合わないような気がする。少し心配だ。
これが2号ということは次は1号。駅の向こう側に頭が四角い低い鉄塔がかいま見える。変電所があるはずだが、駅前に変電所?
駅の反対側に出る。中原変電所は繁華街の只中にあった。
広い敷地に変圧器が露天でゆったりと並ぶ。建物も塀もとてもレトロな雰囲気。敷地内に鉄塔が3本。
頭が四角い引下げ鉄塔が辿ってきた新丸子線だ。
大きな矩形の片寄り鉄塔は住吉線。背が高くとても風変わり。
ドラキュラ鉄塔は中原線。見上げるとコウモリが3羽、今にも飛び立ちそうだ。
工業で育った川崎だから駅前のこんな繁華街にも変電所が残っていられるのかもしれない。でも今の工場は音も臭いも出さない。外観だってピカピカ、スベスベ。
駅の反対側は再開発が進む。こちら側もきれいで凹凸のない街になるのだろう。
新丸子線は2万ボルトの路線。いまだ架空送電であることは東京近辺では奇跡に近い。いの一番になくなる気もする。歴史を背負った個性溢れる鉄塔たちも引退の日が近いのだろうか。